小論文問題に挑戦! 東大生による入試問題解説

2017年6月号記事の解答例はコチラ

 
埋め立て架橋計画について行政側と住人側とで争われた鞆の浦の事例は、歴史的景観の保護と、そこで暮らす住民の利便性の両立の難しさを浮き彫りにした。橋のない生活は不便極まりないが、それでも住民は景観が破壊されることを良しとしなかったのである。
 鞆の浦をはじめ、ある空間の価値というものは、単なる生活の拠点としての価値だけではない。そこに住まう人々の営為が、時を重ね空間の履歴として蓄積され、意味を付与された空間「トポス」として成立する。その空間においては、人々の空間への愛着=「トポフィリア」が育まれ、空間の価値の一つを形成している。
 利便性を追求した都市計画は、ともすればそこに住まう住民の、景観に対するトポフィリアを蔑ろにしてしまう。利便性と、空間の履歴たる景観の保護の双方を両立させる都市計画が、今や求められている。
 この点、筆者は性急に結論を急ぐのではなく、住民との話し合いを軸に事を進めるべきだと結論づける。住民の空間への愛着を蔑ろにした計画では、高度経済成長期の世の中ならばともかく、現代では通用しないだろう。
 確かにこれも一つの方策だとは思う。しかしこの主張は対処療法的な解決策でしかない。また利便性と景観の保護がもともと相反する概念である事を考慮すれば、両者の話し合いはどこまでいっても平行線をたどる可能性も高い。
 根本的な解決が達成されるためには、都市計画の領域(理系的領域)だけでなく、景観論(文系的領域)にも精通した、学際的な人材の育成が急務であると、私は考える。縦割りで硬直的な既存の大学教育から脱し、幅広い教養と理解を持つ人材が育成されなければ、このような複合的な要因が絡み合う問題は解決できない。

※あくまで一例ですので、解答はこの限りではございません。