はじめに:異性体は超重要単元
異性体という語句は知っているけれども、意味がよくわからず、問題が解けないことはありませんか?
私も受験生の頃、異性体の問題は苦手でした。しかし、異性体は入試問題にほぼ必ず出題されます。
異性体をきちんと理解できると、模試、入試の点数の10点upも見込めるでしょう。
まずは、異性体の基礎知識をおさえ、例題を通し得点力を身につけましょう。
目次
異性体の定義
異性体とは分子式が同じにもかかわらず、沸点や水溶性、反応性などの性質が異なる化合物を言います。
「分子式が同じ、つまり、化合物を構成している原子の種類と数が同じであるのに、別の物質になることなんてあるのか?」と思った方は鋭い視点です。
わかりやすくするため、分子式C₂H₆Oの具体例を挙げます。
酸素原子の位置に注目。酸素原子を炭素と水素の間に置くとエタノールに、炭素と炭素の間に置くとジメチルエーテルになります。両物質は水への溶けやすさという性質が違いますよね。
つまり、同じC₂H₆Oという分子式でも、酸素原子の位置による構造の違いから、性質の異なる物質となります。
このように、分子式が同じであっても、性質が異なる化合物を異性体と言うのです。
異性体の分類
異性体の分類①: 構造異性体
異性体は2つのグループに分類されます。
まずは、異性体の中でも原子のつながり方が異なる「構造異性体」のグループから見ていきましょう。
構造異性体には、炭素骨格、官能基、官能基の位置が異なる化合物が分類されます。
どのような物質が構造異性体になるのかを見ていきましょう。
構造異性体①:炭素骨格が異なる場合
例
分子式はC₄H₁₀ですが、ブタンは炭素原子がすべて一直線に、2‐メチルプロパンでは枝分かれ構造があり、炭素骨格が異なっていますね。
炭素の枝分かれ構造が多くなればなるほど、沸点や融点が小さくなることもおさえておきましょう。
構造異性体②:官能基が異なる場合
例
官能基とは、物質の性質を決める特定の原子の集まり(原子団)を指します。
今回の場合、官能基はエタノールはーOH(ヒドロキシ基)、ジメチルエーテルはーOー(エーテル結合)となりますね。
官能基の違いによって、エタノールのほうがジメチルエーテルより融点・沸点が大きくなっています。
構造異性体③:官能基の位置が異なる場合
例
分子式C₃H₈Oであり、炭素骨格、官能基も同じです。
しかし、ーOH(ヒドロキシ基)が、真ん中の炭素にくっついているか、端の炭素にくっついているかの構造の違いがありますね。
ヒドロキシ基の位置が異なると、酸化させた時に生じる物質が変化する場合があります。そのため、ーOH(ヒドロキシ基)の位置を問う問題は頻出です。
異性体の分類②:立体異性体
復習ですが、異性体は大きく分けると2グループありました。
2つ目は、「立体異性体」という原子のつながり方が同じですが、立体配置が異なる異性体です。
立体異性体はさらに、シス・トランス異性体と鏡像異性体に分類されます。
立体異性体①:シス・トランス異性体
シス・トランス異性体は、主に炭素二重結合に見られます。
シス・トランス異性体は、ある一種類の原子(原子団も含む)が炭素の二重結合をまたいで、両側に一つずつのみある場合に存在します。
その原子(原子団)が二重結合をまたいで同じ側にある場合をシス形、反対側にある場合をトランス形と言います。
ジクロロエチレンを例にして考えてみましょう。
例
上記の物質は、二重結合の炭素をまたいで、水素、塩素原子が1つずつついており、シス・トランス異性体の条件を満たしています。
シスジクロロエチレンは、二重結合をまたいで2つの塩素原子が同じ位置(図では上側)にあり、シス形となります。
トランスジクロロエチレンは、塩素原子が二重結合をまたいでいるので、トランス形です。
シス・トランス異性体が生じる条件を理解し、シス形かトランス形かの分類をできるようにしましょう。
立体異性体②:光学異性体(鏡像異性体)
光学異性体とは、不斉炭素原子をもつ分子に生じる異性体です。
「不斉炭素原子」とは、4つの異なる原子(原子団)がついている炭素のことです。
光学異性体の例としては、乳酸があります。
どのようにして不斉炭素原子から異性体(光学異性体)ができるのでしょうか?
上記の化合物は炭素原子に4つの異なる原子(原子団)がついています。4つの原子は四面体の頂点ですね。
どちらの物質も、黄、オレンジ、青、緑の原子(原子団)が炭素原子に結合しているので原子のつながり方は同じです。本当に、これらは異性体なのでしょうか?
ここで、黄色の原子(原子団)から見て、残りの原子(原子団)を青→オレンジ→緑の順でたどります。何か違いに気づきませんか?
青→オレンジ→緑の同じ順でたどっていったはずなのに、左の分子は左回りになるのに対し、右の分子では右回りになりますよね。
このように、原子の立体配置が異なることで、不斉炭素原子から異性体が生じるのです。
異性体の確認例題
異性体の例題1
以下の異性体は、「構造異性体」か「立体異性体」のどちらに分類されるでしょうか。
例題1-ⅰ
例題1-ⅱ
答え ⅰ立体異性体 ⅱ構造異性体
ⅰの分子はどちらも、炭素二重結合に水素原子とカルボキシ基がついているので原子のつながり方は同じです。
しかしカルボキシ基が、左の分子はシス形に、右の分子はトランス形になっていますね。わからなかった人は、シス・トランス異性体の解説を読み返してみましょう。
ⅱの分子は炭素骨格の違いがあり、原子のつながり方が異なる異性体なので、構造異性体になります。
異性体の例題2
C₄H₈の構造異性体をすべて構造式で書きましょう。
答え
構造異性体なので、官能基の位置や炭素骨格の違いを考えます。
この問題は、二重結合を持つか、環構造を持つかで場合分けを行うのがポイントです。
二重結合を持つ場合は、二重結合の位置と炭素骨格の違いに注目しましょう。
環構造の場合では、環を構成する原子が4つか3つかを考えます。
異性体の例題3
C₄H₈の異性体をすべて構造式で書きましょう。
答え
例題2と例題3は何が違うのでしょうか?
それは、例題2は構造異性体を考えるので立体異性体を考慮しなくてよいのですが、例題3は異性体を考えるので立体異性体を含めるところです。
例題2では1パターンでしか書かなかった分子が、例題3ではシス・トランス異性体を考慮して2パターンになっていますね。
シス・トランス異性体は、二重結合に関して原子の立体配置が異なることで生じる「立体異性体」でした。
シス・トランス異性体は、ある一種類の原子(原子団も含む)が炭素の二重結合をまたいで、両側に一つずつのみある場合に存在します。
今回はメチル基と水素原子が条件を満たしているので、シス・トランス異性体となります。左がトランス形、右がシス形となることも確認しましょう。
おわりに:異性体の分類を理解した後は、練習問題を解く
記事を通して、異性体にもいろいろな種類があるということを理解できましたか。
まずは人に説明できるようになるくらい、異性体の種類を頭の中で整理しましょう。特に、構造異性体と立体異性体の違いは最重要事項です。
この記事で異性体の知識を身に着けたら、知識を忘れる前に問題演習することをオススメします。