緩衝液が苦手な人必見!緩衝液の仕組みとその例題を詳しく解説

はじめに

化学の授業で緩衝液について習ったもののよくわからない、またいざ問題を解こうとすると、何から考えれば良いのかわからない人も多いのではないでしょうか。

私自身も、高校時代に緩衝液の分野がなかなか理解できず、苦労しました。

そこで、今回は緩衝液の仕組み例題の解き方を詳しく解説します。

緩衝液というと難しく感じる人も多いと思いますが、仕組みさえ理解できれば、問題のパターンは極めて少なく単純です。緩衝液の内容をマスターして、他の人と差をつけましょう!

そもそも緩衝液とは?

緩衝液の仕組みについて解説する前に、そもそも緩衝液とは何なのかを見ていきます。

緩衝液の性質

緩衝液とは少量の酸や塩基を加えた時に、H⁺やOH⁻が溶液中の物質と結合することで、溶液中のH⁺やOH⁻濃度の上昇が抑えられ、pHがほとんど変動しない溶液のことをいいます。

また、緩衝液が持つ、少量の酸や塩基が加えられても溶液のpHを一定に保つ働きは緩衝作用といわれます。

緩衝作用を示す溶液

緩衝作用を示す溶液は限られており、全ての溶液が緩衝作用を示す訳ではありません。
緩衝液となるのは、以下の2パターンです。

  1. 弱酸+その弱酸と強塩基の塩の水溶液
  2. 例)CH₃COOH(弱酸)とCH₃COONa(その弱酸と強塩基の塩)の混合水溶液

  3. 弱塩基+その弱塩基と強酸の塩の水溶液

例)NH₃(弱塩基)とNH₄Cl(その弱塩基と強酸の塩)の混合水溶液

緩衝液の基本問題では、例に挙げた2種類の物質からの出題が大半です。

まずは酢酸+酢酸ナトリウムアンモニア+塩化アンモニウムの問題を解けるようにしておくことで、基本を押さえられますよ。

緩衝液は体内にも!

では、緩衝液は実際にどこで使われており、pHの変化が抑えられるメリットは何なのでしょうか。

実は、私たちの血液細胞内液は緩衝液となっています。意外と身近にありますよね!

体内のpHを維持する仕組みは他にもありますが、血液や細胞内液が緩衝液であることも、体の中のpHが一定に保たれている理由の一つなのです。

具体的には、血液が炭酸イオン(CO₃²⁻)炭酸水素イオン(HCO₃⁻)、細胞内液がリン酸水素イオン(HPO₄²⁻)リン酸二水素イオン(H₂PO₄⁻)の緩衝液になっています。

難易度が上がると、リン酸や炭酸の問題が出題されることもありますよ。

緩衝液の問題を解く時のポイント

続いて、問題を解く時のポイントを3つ紹介します。

ポイント①:ルシャトリエの原理と電離平衡を理解する

緩衝液の仕組みを考える時、ルシャトリエの原理電離平衡の考え方が用いられるため、緩衝液の理解にはこの2分野が重要です。

電離平衡とは弱酸・弱塩基の一部が電離して平衡状態になっていることをいいます。CH₃COOH⇄CH₃COO⁻+H⁺ / NH₃+H₂O⇄NH₄⁺+OH⁻

強酸・強塩基や酢酸ナトリウムなどの塩は基本的に、水に溶かすと電離の方向にのみ反応が進み、一度生成したものは増減しません。

一方、弱酸・弱塩基は周囲の状況の変化に応じて電離平衡が移動し、溶液中の物質を増減させられます。

溶液中で弱酸・弱塩基の電離平衡が成り立っていることで、ルシャトリエの原理により緩衝作用が現れます。

ルシャトリエの原理とは、ある反応が平衡状態にある時に、濃度・圧力・温度などの条件を変化させると、その影響を抑える方向に平衡が移動する原理のことです。

緩衝液では、ルシャトリエの原理から濃度変化の影響が緩和されるので、酸を加えた時は酸を減らす方向に、塩基を加えた時は塩基を減らす方向に反応が進み、これがまさに緩衝作用ですね。

さらに、緩衝液中では、強酸・強塩基や塩の電離で生じた物質(H⁺、OH⁻、CH₃COO⁻など)が、弱酸・弱塩基の電離平衡を移動させることを押さえておきましょう。

ポイント②:化学反応式を書いて考える

問題を解き始める際は、問題に登場した物質が溶液中でどう反応するかをその都度、式で表すことをおすすめします。

上で見たように、緩衝液には完全電離するもの電離平衡にあるものの両方が存在し、それぞれの状態を自分で掴むために化学反応式が重要です。

また、反応式を書いておけば、係数比から計算もスムーズに行えますよ。

しかし、反応機構の理解が不十分だと、何の反応式を書くべきか意外とわからないものです。

この場合、まずは、仕組みをしっかり理解して、反応式を書きながら自分で反応機構を説明できるようにしましょう。

ポイント③:近似を使う箇所は覚えておく

化学平衡の分野では、ほとんど起こらないとみなせる反応は無視でき、計算の際によく近似を使いますよね。

しかし、緩衝液の場合は、与えられた条件から、近似できるかどうかを常に自分で判断するのは難しいため、なぜ近似可能かを理解した上で、近似を用いる部分は暗記しておくことをおすすめします。

緩衝液の仕組み:酢酸(CH₃COOH)+酢酸ナトリウム(CH₃COONa)水溶液の場合

水溶液中の状態を考える

  1. まずは酢酸の電離を考えます。
  2. 酢酸の電離:CH₃COOH⇄CH₃COO⁻+H⁺ ・・・(1)

    酢酸は電離度が小さいので、(1)式の平衡はに偏っており、水溶液中ではCH₃COOHが多く存在しています。

  3. 次に、酢酸ナトリウムの電離を考えます。
  4. 酢酸ナトリウムの電離:CH₃COONa→CH₃COO⁻+Na⁺ 

    酢酸ナトリウムは水に溶かすとほぼ100%電離します。

  5. 酢酸ナトリウムの電離でCH₃COO⁻が多く生成するため、ルシャトリエの原理より、(1)式の平衡はさらにに偏ります。
  6. よって、CH₃COOHはほとんど電離していないと考えられ、CH₃COOHの電離は無視できるのです。そこで、溶液中のCH₃COO⁻はほぼ全てCH₃COONaの電離で生じたものとみなせます。

    ※生成したCH₃COO⁻がCH₃COO⁻+H₂O→CH₃COOH+OH⁻(加水分解反応)により、CH₃COOHになると思われるかもしれません。

    しかし、既にCH₃COOHが多量にあり、さらにOH⁻よりCH₃COO⁻の方が安定に存在するため、加水分解反応はほとんど起こらず、無視できます。

    よって、溶液中のCH₃COOHは全て、投入したCH₃COOHから生じたものとみなせます。

  7. 最終的に、溶液中ではCH₃COOHCH₃COO⁻がそれぞれ大量に存在して平衡状態にあります。

ここに少量の酸を加えた場合

酸(H⁺)が加えられると、CH₃COO⁻がH⁺と反応します。

CH₃COO⁻+H⁺→CH₃COOH

上の反応でCH₃COOHが生成し、溶液中でH⁺はほとんど増えない、つまり、pHもほぼ変動しないとわかります。

ここに少量の塩基を加えた場合

塩基(OH⁻)が加えられると、CH₃COOHがOH⁻と反応します。

CH₃COOH+OH⁻→CH₃COO⁻+H₂O

追加したOH⁻は上の反応で消費されて、CH₃COO⁻H₂Oが生成するので、OH⁻はほとんど増えず、pHは大きく変わりません。

例題1

問題:0.200mol/Lの酢酸を50.0mLと0.200mol/Lの酢酸ナトリウム水溶液50.0mLを混合し、水を加えて1.00Lとしました。この水溶液中の酢酸の濃度と酢酸イオンの濃度を有効数字3桁で求めてみましょう。

解答
加えたCH₃COOHの物質量は0.200mol/L×(50.0/1000)=0.0100mol、
加えたCH₃COONaの物質量も0.200mol/L×(50.0/1000)=0.0100mol

酢酸の電離(CH₃COOH⇄CH₃COO⁻+H⁺)はほぼ起こっていないと考えられるため、溶液中のCH₃COOHの物質量は始めに投入した酢酸の物質量0.0100molに等しい。

よって溶液1.00Lなので、[CH₃COOH]=0.0100mol/L

酢酸ナトリウムの電離(CH₃COONa→CH₃COO⁻+Na⁺)はほぼ100%進み、溶液中のCH₃COO⁻の物質量も酢酸ナトリウムの物質量0.0100molと同じ。

よって[CH₃COO⁻]=0.0100mol/L

例題2

問題:例題1の水溶液のpHを求めてみましょう。
(酢酸の電離定数を2.70×10⁻⁵mol/L、log₁₀2.70=0.431、有効数字3桁とします。)

解答
酢酸の電離定数Ka=[CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH]より、[H⁺]=Ka[CH₃COOH]/[CH₃COO⁻]

例題1で求めた[CH₃COOH]=0.0100mol/L、[CH₃COO⁻]=0.0100mol/Lを代入して、
[H⁺]=Ka=2.70×10⁻⁵mol/L

よって、pH=-log₁₀(2.70×10⁻⁵)=5-0.431=4.569≒4.57

例題3

問題:例題1の水溶液に(1)1.00mol/Lの塩酸を0.100mL加えた時、(2)1.00mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加えた時それぞれの溶液のpHはいくらになるでしょうか。
(酢酸の電離定数を2.70×10⁻⁵mol/L、log₁₀2.754=0.440、log₁₀2.646=0.423、有効数字3桁とします。)

解答

(1)塩酸を加えた時

HClは完全電離し、加えたH⁺の物質量は1.00×10⁻⁴mol

CH₃COO⁻+H⁺→CH₃COOHの反応が起こりCH₃COO⁻は1.00×10⁻⁴mol減少、CH₃COOHは1.00×10⁻⁴mol増加する。

塩酸投入前のCH₃COOH、CH₃COONaの物質量は0.0100mol、溶液全体の体積は1.0001Lより、それぞれのモル濃度は

[CH₃COO⁻]=(1.0×10⁻²mol-1.0×10⁻⁴mol)/1.0001L=9.90×10⁻³mol/1.0001L
[CH₃COOH]=(1.0×10⁻²mol+1.0×10⁻⁴mol)/1.0001L=1.01×10⁻²mol/1.0001L

酢酸の電離定数Ka=[CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH]より、[H⁺]=Ka[CH₃COOH]/[CH₃COO⁻]

ここに[CH₃COO⁻]=9.90×10⁻³mol/1.0001L、[CH₃COOH]=1.01×10⁻²mol/1.0001Lを代入して、
[H⁺]=Ka×(10.1/9.90)=2.70×10⁻⁵×1.020=2.754×10⁻⁵mol/L

よって、pH=-log₁₀(2.754×10⁻⁵)=5-0.440=4.560≒4.56

(2)水酸化ナトリウムを加えた時

NaOHは完全電離し、加えたOH⁻の物質量は1.00×10⁻⁴mol

CH₃COOH+OH⁻→CH₃COO⁻+H₂Oの反応が起こり、CH₃COOHは1.00×10⁻⁴mol減少、CH₃COO⁻は1.00×10⁻⁴mol増加する。

溶液全体の体積は1.0001Lより、それぞれのモル濃度は
[CH₃COOH]=(1.0×10⁻²mol-1.0×10⁻⁴mol)/1.0001L=9.90×10⁻³mol/1.0001L
[CH₃COO⁻]=(1.0×10⁻²mol+1.0×10⁻⁴mol)/1.0001L=1.01×10⁻²mol/1.0001L

酢酸の電離定数Ka=[CH₃COO⁻][H⁺]/[CH₃COOH]より、[H⁺]=Ka[CH₃COOH]/[CH₃COO⁻]

ここに[CH₃COOH]=9.90×10⁻³mol/1.0001L、[CH₃COO⁻]=1.01×10⁻²mol/1.0001Lを代入して、
[H⁺]=Ka×(9.90/10.1)=2.70×10⁻⁵×0.9801=2.646×10⁻⁵mol/L

よって、pH=-log₁₀(2.646×10⁻⁵)=5-0.423=4.577≒4.58

緩衝液の仕組み:アンモニア(NH₃)+塩化アンモニウム(NH₄Cl)水溶液の場合

水溶液中の状態を考える

考え方は酢酸の時と同じで、酸が塩基に変わります。

  1. まずはアンモニアの電離を考えます。
  2. アンモニアの電離:NH₃+H₂O⇄NH₄⁺+OH⁻・・・(2)

    酢酸と同様、弱塩基のアンモニアの電離度は低く、水溶液中では分子形NH₃がほとんどで平衡はに偏っています。

  3. 次に、塩化アンモニウムの電離を考えます。
  4. 塩化アンモニウムの電離:NH₄Cl→NH₄⁺+Cl⁻

    酢酸ナトリウム同様、塩化アンモニウムもほぼ100%電離します。

  5. NH₄⁺が多く存在することで、ルシャトリエの原理より(2)式のアンモニアの電離平衡はさらにに偏っています。
  6. これにより、NH₃はほとんど電離していないと考えられ、溶液中のNH₄⁺はほぼ全てNH₄Clの電離で生じたものとみなせます。

    NH₄⁺の加水分解(NH₄⁺+H₂O→NH₃+H₃O⁺)もほとんど起こらないため、NH₄⁺がNH₃に戻る反応は無視できるのです。

    よって、溶液中のNH₃は投入したNH₃から生じたものとみなせます。

  7. 溶液中ではNH₃NH₄⁺が多量に存在し、平衡状態にあります。

ここに少量の酸を加えた場合

酸とNH₃が反応します。

NH₃+H⁺→NH₄⁺

上の反応で加えたH⁺が消費されてNH₄⁺が生成するため、H⁺はほとんど増えず、pHもあまり小さくなりません。

ここに少量の塩基を加えた場合

塩基とNH₄⁺が反応します。

NH₄⁺+OH⁻→NH₃+H₂O

上の反応で加えたOH⁻が消費され、NH₃H₂Oが生成するため、OH⁻はほとんど増えず、pHはあまり大きくなりません。

例題4

最後に、アンモニアと塩化アンモニウムの緩衝液の例題を解いてみましょう。

問題:0.20mol/Lのアンモニア100mLと0.10mol/Lの塩酸100mLを混合した時、この水溶液中のpHを求めましょう。(アンモニアの電離定数を2.3×10⁻⁵mol/L、log₁₀4.34=0.64、有効数字は2桁とします。)

解答
加えたNH₃の物質量は0.20mol/L×(100/1000)=0.020mol、加えたHClの物質量は0.10mol/L×(100/1000)=0.010mol

中和反応が起こる。NH₃+HCl→NH₄Cl

中和反応ではNH₃が0.010mol、HClが0.010mol消費されるので、
反応後の溶液にはNH₃が0.020-0.010=0.010mol、NH₄Clが0.010mol存在する。

ここで、NH₃の電離(NH₃+H₂O⇄NH₄⁺+OH⁻)はほぼ起こっていないと考えられるため、溶液中のNH₃の物質量は中和で消費された残りの0.010molとみなせる。

溶液全体は200mLなので、[NH₃]=0.050mol/L

生成したNH₄Clはほぼ100%電離し(NH₄Cl→NH₄⁺+Cl⁻)、溶液中のNH₄⁺の物質量は係数比から、生成したNH₄Clの物質量と同じく0.010mol よって[NH₄⁺]=0.050mol/L

アンモニアの電離定数Kb=[NH₄⁺][OH⁻]/[NH₃]より、[OH⁻]=Kb[NH₃]/[NH₄⁺]=Kb×0.050/0.050=Kb=2.3×10⁻⁵

[H⁺]=1.0×10⁻¹⁴/2.3×10⁻⁵=4.34×10⁻¹⁰

よってpH=-log₁₀(4.34×10⁻¹⁰)=10-0.64=9.36≒9.4

例題1は、数研出版株式会社発行「改訂版 化学」(平成30年1月31日発行版)の第2編 4章 問Aを参考に作成しています。
また、各例題で示した電離定数は、上記文献の同章 表16中の値を用いました。

緩衝液の問題2パターンのまとめ

パターン①:弱酸+その弱酸と強塩基の塩(弱塩基+その弱塩基と強酸の塩)を混合する問題

これは問題で与えられた溶液がCH₃COOH+CH₃COONaNH₃+NH₄Clの時です。今回は例題1にあたります。

酢酸の場合、溶液中のCH₃COOH量≒投入したCH₃COOH量・溶液中のCH₃COO⁻量≒投入したCH₃COONa量として計算していきます。

パターン②:弱酸+強塩基(弱塩基+強酸)を混合する問題

問題で与えられた溶液がCH₃COOH+NaOHNH₃+HClの時、例題4のような問題です。

パターン②では、緩衝液となるのに必要な、弱酸と強塩基の塩/弱塩基と強酸の塩が中和反応により生成するところから、考える必要があります。

(酢酸の場合:CH₃COOH+NaOH→CH₃COONa+H₂O)

パターン②の問題では、弱酸/弱塩基の方が強酸/強塩基より多く加えられています。

中和によって弱酸その弱酸と強塩基の塩/弱塩基その弱塩基と強酸の塩同時に存在するようになり、ここでパターン①と同じ状態になるため、あとは①と同じように計算を進めます。

酢酸の場合、溶液中のCH₃COO⁻量≒投入したNaOH量、溶液中のCH₃COOH量≒投入したCH₃COOH量ー中和で消費されたCH₃COOH量(=投入したNaOH量)となります。

おわりに

いかがでしたか。緩衝液の仕組みや問題の解法を少しは掴めたでしょうか。

ほとんど起こらない反応は無視するなど、慣れない考え方を使う場面があり、一度で理解するのは難しいかもしれません。

逆に、緩衝液をマスターできれば、化学平衡の分野はかなり理解できていると言えますよ。

根気強く問題を解いて緩衝液の考え方に慣れていきましょう!

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