現役哲学者が語る、哲学専攻に向いている人の4つの特徴

はじめに:哲学が好きだけど、哲学専攻するのは不安……という人へ

皆さんは、「哲学科」「哲学専攻」という肩書を持った人を見てどんな印象を受けるでしょうか。

「なんか気難しそう……」

「就職で困りそう……」

「友達いなさそう……」

哲学科って、なぜか陰鬱なイメージがありますよね。

哲学に興味がある人の中には、大学で哲学を専攻したいけれど、哲学科にはネガティブなイメージがあるから迷っている、という方も少なくないでしょう。

そこでこの記事では、哲学の学会に所属して活動している私が、哲学専攻に向いている人の特徴をご紹介します。

この記事を読んで、自分が哲学の研究に向いているかどうか判断してみてくださいね。

哲学を専攻するために必要なスキル

はじめに、哲学を専攻する上で必要なスキルを紹介しておきます。

大学の哲学の授業・演習は、以下に取り上げるスキルが備わっていることを前提に進められるので、「ちょっと自信ないな」という方は哲学を専攻しない方が良いでしょう。

哲学を専攻するために必要なスキル①:現代文ができる

哲学を専攻する上で必要なスキルとして、「現代文ができる」というスキルが挙げられます。

哲学の問いは、ある程度普遍的な問いなので、他の学問分野よりも先行研究がたくさんあります。

研究には独自性が必要ですから、自分が関心のある問いを研究するためには、その問いに関わる重要な先行研究を全てチェックしなければなりません。

私の専門の1つに「女性論」がありますが、他の哲学の研究テーマに比べて研究の歴史が浅いにも関わらず、少なく見積もっても数千件の先行研究があります。

先行研究の中で特に重要なものが1割だとしても、私が「女性論」を研究するには数百件以上の先行研究をチェックしなければなりません(実際、私は卒論を執筆するに当たって400件程度の先行研究をチェックしました)。

数百件を超える先行研究を正確に読むためには、

  • 文章を早く読む力
  • 文章の要旨を的確に把握する力

が求められます。どちらも、現代文で必要になる能力ですよね。

現代文ができると哲学の研究がしやすくなる。これは間違いありません。

哲学を専攻するために必要なスキル②:語学ができる

次に必要なスキルは、語学スキルです。

一口に「哲学」と言っても研究分野は様々ですが、どんな研究をするにせよ基本的に語学のスキルが必須になります。

例えば「女性論」を研究する場合、

「女性とは何か」について研究するぞ!

→「女性とは何か」に関する非常に重要な先行研究として、シモーヌ・ド・ボーヴォワールという人が書いた『第二の性』があるらしい

→「第二の性」は全部フランス語で書かれてあるから、フランス語が読めないとわからないぞ!

となるので、語学ができないと先行研究が読めなくなってしまいます。

英語ができるのはもちろんのこと、ドイツ語・フランス語・イタリア語・ロシア語・中国語・朝鮮語・古代ギリシア語・ラテン語くらいは知っておいた方が良いでしょう。

もちろん全部一気に習得するのは不可能なので、実際には1言語あたり1年〜3年くらいかけて習得していくことになります。

語学ができないと研究のスタートラインにも立てない(先行研究を読めない)わけです。なかなかシビアな世界ですよね。

哲学を専攻するために必要なスキル③:数学ができる

現代文、語学ときて、最後に求められるのが数学のスキルです。

哲学というと文系のイメージがありますが、実は哲学は数学に近い学問です。論理的な思考を極限まで切り詰める学問ですからね。

また、壮大で抽象的なテーマを哲学的に研究するためには、大きくて抽象的なテーマから小さくて具体的なテーマを作り、個々の具体的なテーマに答えていって壮大なテーマへの答えを目指すという作業が必要になります。

難問を分割して、小さな問題を1つずつ解決していく。この能力は数学の問題を解くときに養われるスキルですよね。

論理的な思考力と、問題解決能力。哲学で必要になる能力は、実は数学で養われるのです。

哲学専攻に向いている人の特徴

ここまで説明してきた内容を踏まえて、ここからは哲学専攻に向いている人の特徴を解説していきます。

哲学専攻に向いている人の特徴①:「なぜ?」という疑問を持ち続けられる人

「哲学って何?」と人に聞かれたとき、私は「『なぜ?』を問い続ける学問」と答えるようにしています。

例えば、「なぜ宇宙は存在するのか」という問題があるとします。

この問題に対して「約46億年前にビッグバンが起こったからだよ」と答えてしましょう。一見して正しいように見えますよね。

しかし、この答えに対して「なぜビッグバンは起こったの?」と問われたらどうでしょうか。「起こったから、起こったのだ」としか言えないのではないでしょうか。

もちろん、「起こったから起こった」というのは理由の説明として不適当です。でも自然科学的な説明(「ビッグバンが起こって宇宙が始まった」)をする限り、最終的には「起こったから起こった」に帰着してしまいます。

となると、「なぜ宇宙が存在するのか」という疑問に答えるためには、自然科学とは区別される説明が必要になります。ここで哲学的な説明の出番になるわけです。

自然科学の研究者からしたら、「なぜ宇宙が存在するのか」なんて考えるのはナンセンスに見えるかもしれません。

それでも、この「なぜ」の疑問に答える方法を探し続ける__それが哲学者に求められる研究姿勢なのです。

哲学専攻に向いている人の特徴②:建設的な議論ができる人

哲学を研究するためには、他人と建設的な議論ができなければなりません。

哲学のテーマはどうしても抽象的で壮大になりがちです。壮大な問題に取り組むためには、多くの人間を巻き込んで研究しなければなりません。

多くの人と一緒に研究する上で大事なのは、他人の意見を否定せず、自分の意見と他人の意見を合わせて第三の意見を作り出すことです。

ネット上だと、他人を論破するために議論している人を見かけますが、論破って実はすごく生産性の低い行為なんです。相手の意見に眠っている可能性を潰してしまうわけですからね。

「はい論破w」は哲学の研究では通用しません。よく覚えておきましょう。

哲学専攻に向いている人の特徴③:仕事の管理が上手い人

哲学で扱う問題は大きい問題なので、実際に解くためにはたくさんの小さな問題に分割し、小さな問題を1つずつクリアしていかなければなりません。

学生の場合、論文執筆にかけられる時間は多くありませんから、自分が今解くべき問題を明確にして、効率よく問題をクリアしていく能力が求められます。

したがって、たくさんの課題を効率よく解決する能力=仕事を管理する能力が哲学の研究には必要になります。

宿題や課題をギリギリまで残してしまう人は、哲学を専攻しない方が良いということですね。

哲学専攻に向いている人の特徴④:文章を読み、書く体力がある人

哲学の研究は、膨大な数の先行研究を読み、先行研究を踏まえつつ自論を展開することによって成り立っています。

ですから、たくさんの文章を長時間読んだり、長い文章を書き続けたりできる力が必要になります。

文章を読むことと書くことの両方に慣れていないと、哲学の研究を続けるのは難しいですね。

おわりに:哲学への向き不向きを見極めた上で進路選択をしよう

いかがでしたか?

この記事では、哲学の研究に必要なスキルと、哲学専攻に向いている人の4つの特徴を紹介してきました。

「万学の祖」とも呼ばれる哲学の研究は、生易しいものではありません。しかし、哲学の研究の中で何か新しい事実を発見する喜びは、どんな娯楽にも勝ります。

哲学(philosophia = philo(知) + sophia(愛))という言葉が示している通り、みなさんも真理を目指す知的活動を愛してみてくださいね。

それでは!!




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