はじめに
よく電池と電気分解は「逆」だと言われますが、いったい何が逆なのでしょうか?
私は高校の化学基礎の問題で、正極と負極、陽極と陰極、酸化反応か還元反応かを問われて大混乱していました。
実は電池と電気分解の単元は、電子の動く向きを意識して考えると混乱することがなくなります!
その方法を紹介するのでぜひ最後まで読んでくださいね!
目次
ボルタ電池で学ぶ電池の仕組み
電池はたいてい、2種類の金属板を導線で繋いで、電解質水溶液につけると、勝手に電流が流れるという仕組みを利用したものが出題されます。
今回はわかりやすくするために、極が金属板の時のみを考えます。
【電池の仕組み】①電池の理解の肝は「イオン化傾向」
ここで、イオン化傾向とは何だったか復習しておきましょう。
イオン化傾向とは、(主に)金属の、「イオンになりやすさ」のことです。
イオン化傾向は次の図のとおりです。(H2は水素分子H2のことです)
「イオン化傾向が大きい」というのは、隙あらば電子を放出し、陽イオンになりたがる、つまり溶けたがるということです。
イオン化傾向が大きいナトリウムが陽イオンになる時の半反応式は Na→Na++eー ですね。
ナトリウムを灯油中に保管することを知っていますか?
これは、ナトリウムのイオン化傾向が大きいことと関係しています。
ナトリウムの単体を水に入れると、ナトリウムは陽イオンになろうとして爆発レベルで急激に反応します。
2Na+2H2O→2NaOH+H2
だから、水と反応しないように灯油中で保管します。
ここから、「水溶液の中ではナトリウムは単体にならない」ということも理解しておきましょう。
反対に、「イオン化傾向が小さい」というのは、できるだけ単体(イオンでない状態)でいたいということです。
銀Agや金Auは「イオン化傾向が小さい」金属です。
どちらも単体で、アクセサリーなどとして流通していますよね。
これらの金属は陽イオンになりにくい、つまり化学変化を起こしにくいので、ずっと綺麗なままなのです。
【電池の仕組み】②正極と負極を「電子の動き」で見分ける
この記事では、一番単純な「ボルタ電池」を例に、電池の正極と負極を説明していきます。
ボルタ電池の極はそれぞれ、亜鉛と銅でできています。亜鉛板と銅板を導線で繋いでH2SO4水溶液につけたらどうなるでしょうか?
これは、イオン化傾向がCuよりZnの方が大きいので、Znだけが溶けます!
Znが溶ける時の反応式は Zn→Zn2++2eー です。
Znが溶けて電子を放出すると、電子は下図の青矢印のように導線を流れます。
電子の流れる向きと電流の流れる向きは逆ですよね。つまり、電流は下図の赤矢印の向きに流れます。
さらに、電流は電池の正極(+)から出て負極(ー)に入ることを合わせて考えると、ボルタ電池の正極はCuで負極がZnだとわかります。
このように、電池ではイオン化傾向が大きい方が溶ける→電子の流れ→電流の流れ→負極を探して極の特定、という流れで考えるとわかりやすいでしょう。
【覚えるPoint】電池はイオン化傾向が大きい方がとけ、それが負極である!!
あくまで極が溶けるのは、極が金属板の時の話です。しかし電子の動きはどの電池でも同じなので、初めはボルタ電池の例で覚えると良いでしょう。
【電池の仕組み】③正極と負極の「半反応式」を最後に組み立てる
ボルタ電池の正極と負極の半反応式は
負極(Zn):Zn→Zn2++2eー
正極(Cu):2H++2eー→H2
となります。
正極の半反応式を考えるときは、流れてきた電子eーを受け取ってくれる陽イオンを、溶液の中から探します。
ボルタ電池では、溶液中にある陽イオンはZn2+とH+です。
これらのイオン化傾向を比較すると、Zn2+よりH+の方がイオン化傾向が小さいので、H+が電子を受け取るとわかります。
よってボルタ電池の正極ではH+が電子を受け取る反応をします。
【電池の仕組み】④酸化反応と還元反応を見分ける
電池では、酸化還元反応と絡めて出題されることが多くあります。酸化反応とは、電子を放出する反応のことです。
上で作った正極と負極の半反応式を確認すると、酸化反応は電池の負極で起こるとわかりますね。
還元反応とは、電子を受け取る反応のことなので、電池の正極で起こります。
ただし、これを覚えるよりは自分で反応式を書いてから「電子を放出してるから、酸化反応だ」「受け取ってるから還元反応だ」と判断できると良いでしょう。
酸化の一番わかりやすい例は「酸素と結合すること」ですよね。
酸素は、電子を奪う力が強いという性質を持っています。
つまり「酸素と結合する」とは「電子を放出して酸素に受け渡している」ということなのです。
したがって、酸化は「電子を放出する反応」である、と覚えられますね。
塩化銅水溶液(CuCl2)の電気分解を例に考える電気分解の仕組み
次に、電気分解について説明します。どこが電池と異なるのか、混同しやすいのでしっかり理解してくださいね。
電気分解は、電極を電解質水溶液につけて電流を流すと、水溶液中の物質または電極自身が酸化還元反応を起こすという現象です。
電池は勝手に起こる反応で、電気分解は電池などで電気を流すことで無理やり起こす反応、という違いがあるといえるでしょう。
ここでは、塩化銅水溶液(CuCl2)の電気分解を例に説明します。
【電気分解の仕組み】①陽極・陰極と電池の正極・負極の関係
【覚えるPoint】電気分解では、電池の正極とつながっているのが陽極、負極とつながっているのが陰極
電気分解では+どうし、ーどうしがつながっている、と覚えると良いでしょう。
これさえ覚えておけば、自分で図を書いて電子の動きを確認できます。
電流は電池の正極から出て負極に入るので、電流の流れは下図では赤矢印の左回りで、電子の流れはその逆の青矢印の右回りになります。
電源の+が電子を吸い上げ、ーが電子を放出するイメージを持つと良いでしょう。
【電気分解の仕組み】②陽極と陰極の半反応式は電池の時と似ている
では、電気分解の陽極の半反応式を考えましょう。
電池または電源の正極とつながっているのが陽極で、正極に電子を吸い上げられていますから、陽極では電子を放出する酸化反応が起こるとわかります。
電子を放出できる物質を水溶液か極の素材から探すと、今回は陰イオンである塩素が液中に存在するので、陽極の半反応式は、
2Clー→Cl2+2eー
になります。
次に陰極の半反応式を考えます。
電池または電源の負極とつながっているのが陰極で、負極から電子を送り込まれているので、電子を受け取る還元反応だとわかりますね。
電子を受け取れる物質を水溶液か極の素材から探すと、今回は陽イオンである銅が液中に存在するので、陰極の半反応式は、
Cu2++2eー→Cu
になります。
ただし電池の時と同じで、自分で反応式を書いてから「電子を放出してるから、酸化反応だ」「受け取ってるから還元反応だ」と判断しましょう。
まとめ:結局電池と電気分解は何が違うの?
電池は勝手に起こる反応で、電気分解は電気を流して無理やり起こす反応といえます。
電池は最初にイオン化傾向から「どちらの金属が溶けるか(もしくは酸化されやすいか)」を考えて、電子の流れる向きから電流の向きや極を特定します。
電気分解は最初に「どっち向きに電流が流されるか」を考えて、電流の向きから電子の流れる向きや極を特定します。
大事なのは、電子の流れを図に書き込むことです。
おわりに
今回は単純な例のみを扱いましたが、問題によって登場する金属や物質は異なります。
しかし電池と電気分解の単元では、電子の流れる向きを自信をもって答えられれば、反応式を組み立てるヒントになります。
電子の流れからどの物質がどこで電子を放出するか、どこで電子を受け取るか見当がつけられるようになると、問題が解きやすくなりますよ!