はじめに
世界史選択のみなさん、勉強は順調に進んでいますか。
論述の問題は入試で最も差がつく分野です。
しかし、論述問題に苦手意識を持っている人も多いのではないでしょうか。
今回は、論述で得点を伸ばす方法をお教えします!
大切なのは問いに答えること
2012年の東大世界史第一問を例に考えてみましょう。
ヨーロッパ列強により植民地化されたアジア・アフリカの諸地域では、20世紀にはいると民族主義(国民主義)の運動が高まり、第一次世界大戦後、ついで第二次世界大戦後に、その多くが独立を達成する。しかしその後も旧宗主国(旧植民地本国)への経済的従属や、同化政策のもたらした旧宗主国との文化的結びつき、また旧植民地からの移民増加による旧宗主国内の社会問題など、植民地主義の遺産は、現在まで長い影を落としている。植民地独立の過程とその後の展開は、ヨーロッパ諸国それぞれの植民地政策の差異に加えて、社会主義や宗教運動などの影響もうけつつ、地域により異なる様相を呈する。
以上の点に留意し、地域ごとの差異を考えながら、アジア・アフリカにおける植民地独立の過程とその後の動向を論じなさい。
解答は解答欄に18行以内で記し、必ず次の8つの語句を一度は用いて、その後に下線を付しなさい。カシミール戦争 ディエンビエンフー スエズ運河国有化
アルジェリア戦争 ワフド党 ドイモイ
非暴力・不服従 宗教的標章法(注)注)2004年3月にフランスで制定された法律。「宗教シンボル禁止法とも呼ばれ、公立学校におけるムスリム女性のスカーフ着用禁止が、国際的な議論の対象になった。
※1行30字です。
「試験なんだから問いに答えるのなんて当たり前」と思われている方も多いかもしれません。
しかし、膨大な文字量を書いていると、次々に関連する事柄が頭に浮かび、「あれも、これも答案に入れた方が良いのではないか」といった考えに陥ることがあります。
また、指定語句があるため、その説明に重きを置きすぎて知っていることをつらつら書き連ねてしまうこともあります。
そのように、論述の問題はあれこれ書いても「問いに答えていなければ」点数は来ません。
では「問いに答える」とはどういうことなのか、次項からご紹介します。
まず大事なのは設問分析
この問題が問うていることは「アジア・アフリカにおける植民地独立の過程とその後の動向」です。
それに条件「地域ごとの差異を考えながら」がついています。
解答を作成するときは、常にこの問いと条件を意識するようにしましょう。
また、指定語句がついています。
みなさん、ここは絶対に注意してください。
指定語句が示しているのは解答の範囲「だけ」です。
今回は、
カシミール戦争、非暴力・不服従→インド
ディエンビエンフー、ドイモイ→ベトナム
スエズ運河国有化、ワフド党→エジプト
アルジェリア戦争→アルジェリア
宗教的標章法→フランス(アルジェリアの宗主国)
という風に考えて、
「アルジェリア(宗主国:フランス)、エジプト(宗主国:イギリス)、インド(宗主国:イギリス)、ベトナム(宗主国:フランス)らへんを論じればいいのかな」と想定できればokです。
先ほども述べましたが、論述は決して指定語句を説明することが中心の問題ではありません。
論じるべきことの中で自然に指定語句が用いられていることがベストであるという認識でいてください。
前置きからヒントを得る
問いと範囲はわかりました。
しかし、具体的に何を論じればいいのかはまだ不明瞭です。
みなさんは「以上の点に留意しながら」の前の、前置きを読み飛ばしてはいないでしょうか。
実はここから解答を作成するヒントを多く得ることができます!
次にこの部分を分析していきましょう。
「ヨーロッパ列強により植民地化されたアジア・アフリカの諸地域では、20世紀にはいると民族主義(国民主義)の運動が高まり、第一次世界大戦後、ついで第二次世界大戦後に、その多くが独立を達成する。」
→この部分は教科書にも書いてある内容なので、みなさんご存知でしょう。
強いて言うなら、民族主義について言及しておいた方が良いのかな、という程度です。
「しかしその後も旧宗主国(旧植民地本国)への経済的従属や、同化政策のもたらした旧宗主国との文化的結びつき、また旧植民地からの移民増加による旧宗主国内の社会問題など、植民地主義の遺産は、現在まで長い影を落としている。」
→この文章は
①旧宗主国への経済的従属
②同化政策のもたらした旧宗主国との文化的結びつき
③旧植民地からの移民増加による旧宗主国内の社会問題
の3点に触れるよう暗示しています。
「植民地独立の過程とその後の展開は、ヨーロッパ諸国それぞれの植民地政策の差異に加えて、社会主義や宗教運動などの影響もうけつつ、地域により異なる様相を呈する。」
→この文章からは、条件にもある通り「植民地政策の差異」に触れること、「社会主義や宗教運動などの影響」に触れなければならないとわかります。
このように、読み飛ばしてしまいたくなる設問の前置きもしっかり分析することで解答のヒントを得ることができます。
この地点で、ある程度知識がある人なら何を書かなきゃいけないか、指定語句とヒントがどのように結びつくのか予想がつくでしょう。
例えば、「旧植民地からの移民増加による旧宗主国内の社会問題」ということから、
「あ~アルジェリアからフランスに移民が増加して、キリスト教とイスラム教の文化の違いで軋轢が生じていることを述べればいいのかな」
なんてことを思い浮かべられればokです!
書くときは文章の構造に注意
さあ、前項までで解答を作る下地はできました。
あとは自分の知識をもとに解答を書き上げていくだけです。
しかし、ここで注意してほしいのは解答の文章の構造です。
以上の条件とヒントをもとに書き上げていくわけですが、「どの順番に書いていくのか」「どれとどれを一緒に論じるのか」などについて熟慮する必要があります。
今回の場合、宗主国ずつで論じていくより植民地ごとに論じていくのが無難でしょう。
また、順番はそれぞれの好みですが、今回は西から順に書いていきます。
解答の流れとしては
アルジェリア(宗主国:フランス)
「アルジェリア戦争」「旧宗主国(旧植民地本国)への経済的従属→独立したものの貧しくてフランスへの移民が増加」「同化政策のもたらした旧宗主国との文化的結びつき→フランス語が話せることが移民を増加させる一因に」「旧植民地からの移民増加による旧宗主国内の社会問題→宗教が違うことによる軋轢、宗教的標章法」について言及
↓
エジプト(宗主国:イギリス)
「ワフド党」「スエズ運河国有化」「民族主義→アラブ民族主義」について言及
↓
インド(宗主国:イギリス)
「非暴力・不服従」「社会主義や宗教運動などの影響1→カシミール戦争」について言及
↓
ベトナム(宗主国:フランス)
「ディエンビエンフーの戦い」「社会主義や宗教運動などの影響2→ドイモイ」について言及
このような形で解答をまとめていけばよいのではないでしょうか!
最後に問いに答えているか、もう一度チェック!
解答の構想を練り終えたら、もう一度問いとヒントに基づいているか、問いから外れた余分なことを書いていないか確認しましょう。
論述の問題では、必要な要素を書ききれるぎりぎりの字数を指定しています。
余分なことを書くと、その分だけ必要な要素を書ききれなくなります。
必ず確認するようにしてください。
おわりに
いかがだったでしょうか。
私も入試本番の直前になって、ようやく論述の書き方をマスターできるようになりました。
皆さんも論述を得点源にして、世界史で高得点を狙いましょう。