はじめに
地理を個別試験で課す大学は非常に少ないです。また、課した場合でも多くの場合は知識を重視した選択問題が連なり、地名や農作物、工業品、宗教分布などを片っ端から暗記することが求められています。
しかし、東大の地理はこのような暗記偏重な他大学の傾向とは違い、徹底して論理の記述を求めています。
知識は共通テストレベルでもほとんど問題ありませんが、様々な地理的現象がどのようなメカニズムで起きるのかを説明できるようになる必要があります。
このように、東大の地理は少し独特ではありますが、実は日本史や世界史よりも比較的すぐに合格点が狙えるという特徴があります。
さらに一度教科書レベルの知識運用が可能になれば、なかなか点数も落としにくいのです!
ネット上や参考書ではほとんど東大の地理について具体的かつ実現可能な情報・対策法が示されていませんので、ぜひこの記事を参考に東大地理の対策を行なってくださいね。
目次
東大地理の概要(大問別配点、目安となるおすすめの時間配分)
それではここから、東大地理の基本的な情報を紹介します。東大に限らず、日本の大学受験では基本的に満点の点数以外公表されていないため、各大問の点数はもちろん、配点基準も各予備校の分析に基づいた推測の域を出ません。
そのため、あまり配点については悩まず参考程度に受け止めてくれて構いません。
【東大地理】出題形式、試験時間
東京大学の地歴は、2教科合わせて150分で、地理の試験は大問3つで構成されています。そのため、単純計算だと地理全体で75分、各大問25分の計算になりますね。
出題形式は記号問題と先ほど紹介したような論述問題が中心で、時々単答問題が含まれます。各大問とも同じような形式の出題で、それぞれA〜D程度の小問に分かれています。
各小問の初めには統計データを読み取るものが出題され、空欄になった箇所に国名や資源名を埋めるのがほとんどです。また、そのあとに続く論述問題はこの時選択したものが関連してくるので、記号問題を間違えると自動的に論述も解答できない仕組みになっています。
出題のレベルは総じて教科書レベル+αであり、記号問題を含む知識問題は共通テストで8割以上ならほとんどクリアできます。
しかし、読み取る図表はどれも見慣れないものが多く、いわゆる「統計暗記」では到底太刀打ちできないものばかりです。普段からデータの背景を考える習慣があるかが試されます。
【東大地理】出題の傾向、配点
地理全体の配点は60点です。そのため全体の配点は20点だろうと考えられています。記号や単答問題の割合が全体の3分の1程度あることから、配点もそれだけで20点程度あると言われています。
また、論述問題は1行〜4行(30字〜120字)で説明をすることが多く、2行(60字)の出題がもっとも多いです。全体の論述問題は例年だと15題ほどで、全て満足いく解答を書くには時間的制約が非常に厳しいです。
出題の範囲は地理B全体を網羅していますが、系統地理の範囲からだと農業、工業、貿易、人口移動などの国際比較が頻出分野です。地誌の範囲では第3問に日本からの出題が多く、その中でも都市の発展やそれに伴う人口移動がよく出題されています。
日本の地誌については教科書の記述よりも詳細に聞かれることがほとんどですが、その内容は共通テストで触れられる語句をきちんと理解しているならある程度解答できます。
最近は2〜3年に一度の割合で地形図が出題されています。
古いネットの記事や参考書で「東大では地形図が出題されない」と書いていることがありますが、今となっては都市伝説。2つの時代が異なる地形図を並べて変化を問うたり、地形の特徴を聞かれることが多いので、必ず過去問を確認しましょう。
また、論述問題の配点については2行だと3点、3行だと4点を意識して解答要素を決定しましょう。「3行の問題だけど重要なキーワードが1つしかない」と思ったら、その答案にいい点数はつきません。意識的に地理用語を使い、高得点を狙いましょう。
【東大地理】合格するための目標点、合格者平均点とは?
東大入試では、総合点の合格者平均点は公開されていますが、個別の科目については非公開となっています。そのため厳密な平均点を知ることはできませんが、各予備校のデータから見ると35点〜40点程度が妥当なラインでしょう。
しかし、あくまで入試は総合点で勝負するものですから、個人の得意不得意に応じた目標設定をしていただきたいです。
地理の得意不得意 | 目標点数 |
得意 | 45点〜 |
普通 | 40点〜 |
苦手 | 30点〜 |
ここに表で目安となる目標点を示しておきます。
得意な人でも実は50点を超える人はなかなかいません。しかし、論理的に妥当な解答を一通り書いていれば30点を切ることもないでしょう。そのため、最低でも30点、得意な方は7割越えを目指してほしいですね。
【東大地理】おすすめの解く順番
地理は各大問の形式に大きな差がないため、解く順番を固定することができません。ここでは、地理の問題を前にしたとき、どのような手順で問題を解き進めるべきかを説明します。
ポイント1:まずは全体を見通す
地理に限ったことではありませんが、すぐさま大問1から順番に解いてはいけません。まずは大問1〜3でどの分野が出題されているか、そして論述が何行分あるのか必ず確認してください。
ポイント2:典型問題が多い大問・論述が少ない大問から解く
地理の論述対策をしていると、何度も出題される典型問題がわかるようになってきます。具体的な内容は後半で説明しますが、問題数が多い地理では最初に典型問題から手際よく解くことでより難しい問題に多くの時間を割くことができるようになります。
論述が少ない大問も同様な理由から先に解いておくといいでしょう。もちろん、論述が少なければ解きやすいというわけではありませんが、初めの20分で大問1つ分を解き終えているとかなり心理的な余裕が生まれるので、ぜひその点を意識して順番を決定してください。
ポイント3:手が止まる問題は一旦飛ばす
ポイント1と2を意識しても、解いている最中にわからない問題や判断に迷う問題があれば、一旦飛ばすことをオススメします。
制限時間が厳しい東大地理で足を止めるのはご法度です。わかる問題を真っ先に片付けましょう。記号問題で多少迷っても、後に出てくる論述問題をヒントにして解けることもありますので、解答する際は設問を見渡して出題者の意図は何かを考える癖をつけておくといいですよ。
【東大地理】おすすめの時間配分は?
150分で2教科解答する東大の地歴では、基本的に1教科75分で解くことが多いです。もちろん、もう一方の科目がものすごく得意で地理に100分かけられる方もいるかもしれませんが、ここでは75分で解くことを前提におすすめを解き方を紹介します。
全体を見通す | 3分 |
大問1(解きやすい大問) | 20分以内 |
大問2 | 20分 |
大問3(記述が多い大問) | 25分 |
飛ばした問題を解く | 5分 |
全体を再度確認 | 2分 |
単純に計算すると各大問25分ですが、始めと最後に解答を確認する時間などを考慮して進めることをおすすめします。
全体を見通した際に解きやすそうだと判断した大問をできるだけ速く解けるようにしましょう。見渡す時間と合わせて20分以内が理想ですが、問題の組み合わせによって臨機応変に対応してください。
少し難しそうだと判断した大問については、25分程度かけても構いません。また、それ以外の大問で20分より速く解ききれた場合はもう少し時間をかけても大丈夫です。このような配分は頭で理解してもなかなか実践できないので、模擬試験や演習を通じて自然とできるようにしてほしいです!
【東大地理】大問別解説と対策法
ここでは、東大地理でよく出題される典型問題についてその大まかな内容やポイントを説明します。この記事で大枠を理解し、自分で勉強しながら理解を深めてくださいね。
東大地理対策法:日本の都市・人口
日本の都市の発展や人口の移動は経済の発展や国際的な貿易に関する情勢等をきっかけに変化します。簡単な年代を押さえた上で、どのような推移をたどるのかをおさえてください。
年表を見たときにここで紹介された事項が想起されるとベストです!
1954年頃〜1972年頃:高度経済成長期
高度経済成長についてはみなさん知っているかと思います。この時、東京や大阪といった大都市が経済的に大きく発展しました。それにより中卒の一括採用などが始まって、地方から都市へ若者が多く流入したのです。
そのためこの時期には「地方→都市」という人口移動とともに、千里ニュータウン、多摩ニュータウンなどのベッドタウンが郊外にできましたね。しかし、スプロール化という無秩序な開発のせいで住宅地と工業地区が接近するなどの問題が多々発生しました。
1972年・79年:第一次、第二次オイルショック
オイルショックは石油危機とも言われ、中東の情勢悪化に伴う石油価格の急激な高騰が起きたことをさしますね。これにより日本の高度経済成長は終わり、雇用縮小のために大都市から地方中枢都市、近隣の県への人口移動(Jターン)が進みました。
1980年代後半〜90年代:円高とバブル経済
1985年のプラザ合意によって円高不況、その克服のため始めた超低金利政策によってバブル経済が始まりました。バブル経済下では地価が急激に高騰し、都心から郊外への人口移動が目立ちました。
しかしバブル経済が崩壊すると、地価が下落。90年代後半頃から都心の再開発が進み、高層ビルが多く建てられました。その結果、「郊外→都心」という人口移動が発生しました。これが都心回帰です。
このように、共通テスト以上に東大地理では日本の経済状態と都市・人口の変遷とその過程がよく問われています。ここで説明した流れはほんの一部にすぎませんから、人口移動に際して発生する問題点やより細かな地域差についても資料集などで確認しておいてください。
東大地理対策法:アジア諸国の工業化と国際分業化
円高不況になると、日本から海外へ工業製品の輸出が難しくなりますね。それにより貿易摩擦が発生し国家間の関係が悪くなることは今も昔も変わりません。
日本の工場の移設
80年代の円高のため、90年代頃から日本は人件費が安い東南アジア諸国へ工場を移転させました。当時マレーシアやタイに日本の組み立て型工業が移設され、自動車の生産が盛んになりました。それをきっかけにASEAN諸国の部品の分業が始まり、日本国内では研究開発やコンテンツ産業といった非製造的な産業が中心になったんですね。
工場が移設された地域では工業化が進むため経済発展に繋がります。そうなると人件費が高くなりますから、度々製造拠点は移動します。最近まで中国が主な移設先でしたが、中国でも人件費が高騰してきたため、現在はベトナムなどさらに人件費の安い東南アジア諸国に移設されているそうです。
東南アジア諸国の経済力
東南アジアは頻繁に地理の入試で取り扱われますが、各国の経済発展の度合いを把握している受験生は少ないでしょう。それぞれの国で主流になる産業が農業なのか、工業なのかのイメージを持った上で、どの国の経済力が強く、どの国が弱いのかを理解しましょう。
国名 | 人口 | GNI(億ドル) | 一人あたりGNI(ドル) |
シンガポール | 560万 | 3000 | 54000 |
マレーシア | 3000万 | 3000 | 10000 |
タイ | 6700万 | 3600 | 5300 |
インドネシア | 2.6億 | 9000 | 3500 |
フィリピン | 1億 | 3200 | 3200 |
ベトナム | 9000万 | 1600 | 1700 |
ラオス | 700万 | 98 | 1500 |
ミャンマー | 5400万 | 630 | 1200 |
カンボジア | 1600万 | 144 | 950 |
中国 | 14億 | 90000 | 6500 |
韓国 | 5000万 | 13000 | 26000 |
例えばこちらは主要な東南アジアの国々と参考に中国と韓国の人口、国民総所得(GNI)と一人あたりのGNIをまとめたものです。
これを見ると、大まかな各国の経済力がわかります。また、人口の規模も経済力と相関があるので一通り知っておくと便利ですよ。
この表を見ると、インドネシアは人口が多いためにGNIの値が大きくなっているが一人あたりの値は小さく、シンガポールは人口が少ないが一人あたりのGNIは極めて大きくなっているとわかりますね。
【東大地理】現役東大生おすすめの勉強法~参考書一覧~
ここまで東大地理の出題形式や頻出分野などの基本知識を書いてきましたが、これだけわかってもまだ受験勉強は始められません。
ここからは、東大地理で合格点を獲得できるだけの知識やその運用能力が身につく参考書を紹介していきます。全体を「基礎知識系」「論述演習系」「東大対策系」に分けてそれぞれ有名どころを選んでみました。
東大地理勉強法:基礎知識系
地理は東大入試に限らずデータが肝心であり、さらに論述をするためには地理的現象が発生するメカニズムを抑えなくてはなりません。
その上で重要になるのが基礎知識系の参考書です。教科書では詳しく触れられない細かな知識が掲載されているものと、最新の統計資料が乗っているものがおすすめですが、受験者数の少ない地理ではその両方を満たした良書はあまり存在しません。
今回は筆者が実際に使用したものを中心に、有名どころを集めてそれぞれの特徴を紹介します!
資料集:新詳資料COMPLETE各年度版
こちらは帝国書院から出版されている資料集で、教科書に対応して作られています。毎年度中身が少し変化しているので、最新のデータが多く、カラー印刷であるため読んでいて非常に楽しく勉強もはかどります。
しかし、基本的にセンター試験を目標に作られた資料集であるため、論述試験の対策をする際は少々記述が荒い場合があります。
資料集:新詳資料地理の研究
この資料集はいわゆる「地理の研究」と言われるものですね。受験地理で1、2を争うほど詳細な記述がなされています。中身は赤と黒の2色で、教科書準拠の「COMPLETE」という資料集をパワーアップさせた印象です。
レイアウトがきれいで情報を探しやすく、論述問題にも対応できる特徴がある一方で、データが古いものが多いのが欠点です。そのため、この資料集を使う際は最新の統計資料を準備した上で使うことをおすすめします。
資料集:図解・表解地理の完成
こちらはいわゆる「地理の完成」と言われる資料集で、上の「地理の研究」とよく比較されます。特徴としてはこちらも非常に細かい記述がなされている点と、赤と黒の2色刷りである点があげられます。
しかし、この資料集は情報量が多い反面レイアウトが少々複雑で、あまり読みやすくはありません。データもやはり古いものが多いです。
「地理の研究」と異なる点があるとすれば、こちらは予備校関係者が作ったということで入試の出題例などを時々掲載している点ですね。それがメインではありませんが、かなり参考になります。
統計:データブック オブ・ザ・ワールド 各年度版
地理出題される問題にはほとんど統計が絡んでいます。そのため、常に最新のデータを確認して「どうしてこのランキングになるのか」と考えることが重要です。
資料集や問題集に掲載される統計データは10年以上古い場合が多いですから、特に中国や東南アジア、南米が関わる統計データは念入りにこちらで確認するようにしてください。
この統計資料集は後半が各国の紹介ページになっています。例えば「ネパール」と言われてどんな国かわからない場合、この紹介ページから「ネパール」を探して基本情報を得ることができます。
各国のデータをみる際は、人口、GDP、首都、場所、主要な産業を確認しましょう。
参考書:地理B講義の実況中継
こちらは先ほどまでの資料集とは違い、地理の出題範囲全体を学習するための参考書になります。
特徴としては全体が話し言葉で書かれている点と、センター試験の問題を解説するという形式で学習ができる点ですね。
東大地理に限らず、地理を受験で使用するのであれば一度は読んでおきたい参考書です。同じような参考書は多くありますが、こちらはつい最近改定されているため比較的新しいデータが使われています。
他の説明系参考書はどれも10〜20年も前に書かれたもので、データが非常に古く、今後問題を解く上で支障をきたす可能性があります。地理はデータが肝心ですから、参考書を購入する際は中身を必ずデータが準拠している年度を確認してください。
参考書:改定第二版 センター試験地理Bの点数が面白いほどとれる本
こちらも同じく地理の出題範囲全体を学習するための参考書ですね。「センター試験」と書いていますが、著者は東大志望者にも使用を勧めていて、実際中身は非常に丁寧に書かれています。
データも比較的新しく、文章自体も読みやすいですが、あまりに分厚いのが難点ですね。
資料集に掲載された事項がよくわからなかったり、模擬試験で特定の分野が苦手だとわかった場合はこの参考書の該当ページを読むといった、教科書的な利用が向いています。
地図帳
地図帳はどれも同じようなものが多いですが、強いていうならケッペンの気候区分がみやすいページにある地図帳がいいでしょう。
地理を勉強するなら地図帳は必ず必要です。大国の位置関係や地形の特徴を抑えたり、海流、民族分布、資源の分布、なんでも調べることができます。
東大地理勉強法:論述演習系
冒頭でも触れましたが、地理の論述を課す大学は非常に少なく、したがって論述問題集もあまり作られていません。
さらに、東大のように30~120字で論述問題を課す大学はもっと少ないため、その対策ができる問題集は極めてレアです。その上で、ここでは王道ルートとなるであろうものについて紹介します。
地理B論述問題が面白いほど解ける本
東大のみで論述問題を解く予定の受験生は、この一冊を解き切るだけで基礎固めは問題ありません。この本は地理の幅広い分野から典型問題だけを集め、解答に至る過程を細かく、そしてわかりやすく説明しています。
東大に特化している訳ではないので文字数が指定が多かったり、データが古い問題もあります。しかし、データにあまり左右されず現在でも使える論理展開を中心に掲載しているので、問題はありません。
他の参考書とは群を抜いて論述対策がしやすく、そして実践的であるため、迷ったらこれを選ぶといいですよ。
東大地理問題演習
東進から出版されている東大志望向けの論述問題集です。問題の量が非常に多く、中には東大の過去問もありますが、80年代の私大の問題なども掲載されています。
字数も数十字〜数百字まで様々ですが、解説がかなり薄いのが欠点です。ほとんど問題と模範解答しかなく、自学で使用するには不向きですね。
また、模範解答も時々納得できないものが含まれているため、あくまで量をこなしたい、ほとんどの論述問題を解き切った、という方に限って使用するといいかと思います。
納得できる地理論述
こちらは地理の範囲全体から典型問題や頻出問題を集めて掲載した問題集で、東大志望者向けではありません。
字数もやはり東大の形式とは全く異なるものが多く、基礎を固める上で問題はありませんが、全体を通すには少々重たい印象がありますね。
実力をつける地理100題
こちらは基礎がある程度固まった人が実際の入試形式で再度網羅的に知識の定着をはかるための問題集です。
もちろん東大志望者のために作られたものではないため、私大で出題されるような細かな地名や聞いたことない固有名詞もたくさん出てきます。
記述問題もある程度掲載されており、字数も上記の問題集と比べると東大に近いものばかりです。解説は細かいものと雑なものがあり、論述に関しては丁寧に書かれていることが多いです。
しかしやはり地理的現象のメカニズムを構造的に解説する問題集ではないので、こちらも余裕がある人におすすめしたい一冊ですね。
東大地理勉強法:東大対策系
ここでは東大の形式に特化した問題集を紹介します。どれもやはりレベルが高くて、知識を持っているだけでは到底太刀打ちできないものばかりです。
上記の論述演習系を一冊通してから使うことをおすすめします!
東大の地理25ヶ年(最新は27ヶ年)
東大の過去問には、通常の全教科7年分の問題が掲載された赤本と、1つの教科に関して25年集めた赤本があります。
当然ですが、ここに掲載されている問題は全て東大の問題であるため東大対策にこれ以上有効なものはありません。1990年頃から掲載されているので、データは古いものになりますが地理の出題内容はこの一冊でほとんど網羅してしまいます。
そのため、この一冊を最新のデータと照らし合わせて学習すれば、確実に合格点に届くくらいの点数を取ることができます。
この赤本をはじめ、過去問の使い方についてはまたあとで詳しく説明します!
入試攻略問題集 東京大学 地理・歴史 各年度版
これは河合塾が毎年実施している東大オープンの過去問を掲載した問題集です。模擬試験の問題と解答解説がセットになっているため、通常の問題集よりも解説が極めて丁寧です。
また、目安となる採点基準もあるため、自己採点をして実力を把握することができます。問題自体は本試験よりも典型問題の割合が多く点数が取りやすい印象ですが、地歴合わせて150分の演習をするならこの河合の過去問題集が問題のレベル・分量とも適切です。
毎年度新しい問題を掲載したものが販売され、一冊に4セットずつ収録されています。インターネットで2年度前のものを購入すれば8セットも演習に使えるので、最新データかつ東大形式で問題を解きたい方はぜひ活用してほしいと思います!
東京大学への地理・歴史 各年度版 実戦模試演習
こちらは駿台が毎年実施している東大実戦模試の過去問を掲載した問題集です。河合のものと同様解説が極めて丁寧ですね。
この問題集でも採点基準があって自分の実力をはかることができるのですが、河合の東大模試や本試験と比べてかなり難しい問題がいくつかでる場合があります。
具体的には資料集を探しても既存の知識を生かしてもなかなか解答にたどり着かない単なるクイズが出題されたり、典型問題の割合が少ない点があげられます。
とは言っても本試験でも難しい問題は出題されますから、実力がついてきたという実感がある方は積極的に活用してほしいですね。
【東大地理】過去問の取り扱いについて
何年分解くか。
先ほど紹介したように、東大入試では過去問がたくさん手に入ります。大学受験において過去問を解くことは非常に重要ですが、地理に関しては「たくさんとけばいい」と一概にいうことができません。
その理由は、やはりデータが時間とともに変化するからですね。例えば一昔前までコメの輸出といえばタイでしたが、2012年のデータでは1位インド、2位がベトナムで、タイは3位になっています。
統計ランキングを暗記する必要はないので多少入れ替わっても大丈夫ですが、例えばロシアが「ソ連」と表記されている問題はさすがに解けませんし、経済発展前の中国が扱われる問題も少し感覚が変わってきます。
そのため、過去問は基本的に直近10年分を解くくらいに留めるのが無難です。しかし、それ以前にもまだまだ良問はたくさんあります。
古い問題は75分測って解くのではなく、データがあまり変化しない地形、地質、気候などの自然現象が関わる問題や、立地理論や都市形成、人口移動などの理論を問う問題を中心に解くことをおすすめします。
どう解き進めるか。
直近の3年分はできるだけ時間を測って解くようにしましょう。また、その際は必ず専用の解答用紙を利用して、本番どのような手順で解答していくかまでイメージしてください。
それ以前については大問別に解いても構いませんし、10年分以内なら時間を測って実戦的に解いてもいいでしょう。いずれの場合でも必ず解説を読み、知識が足りないものは資料集や参考書の該当ページに目を通してください。
また、複数回出題された問題を見つけたら2つを見比べ、問題の共通点や相違点を考えておくとより深い理解に繋がります。
東大地理の勉強法・対策法まとめ
ここまでで東大地理の特徴や頻出分野、おすすめの教材などについて紹介しました。しかしこれだけ理解してもなかなかうまく勉強することはできません。
ということで、ここではより具体的な東大地理の勉強法と対策について紹介します。
共通テストで基礎固め
共通テストではたくさんの図や表を読解する必要がありますね。その際、問題として問われた事項だけではなく、特徴的なグラフの変化や目立っている数値などの背景も考える習慣をつけましょう。
また、正解の選択肢から地理の論理的な論述の仕方を学ぶのも重要です。共通テストは正しい答えをマークするだけの試験ですが、正解となる選択肢は非常に丁寧に作られています。
可能であれば問題を解く段階から頭の中で「論述で書くとしたら」という視点を持つようにしましょう。知識が詰まった選択肢は一度書き出して自分の知識体系を整理するのに役立てることもできますよ。
さらに地誌の問題が出題されたときは、資料集で出題されなかった知識も確認しておく癖をつけてほしいです。地誌はそれぞれの地域に特有な農業方式や政治制度を暗記するものが多くなりますから、知識の抜けが起きがちです。東大でもその知識が問われることは多くありますから、資料集を読む際はそれらが生まれた背景や現在抱えた問題点などと一緒に再度学習し、論述を見据えた復習をしてください。
東大対策では「つながり」を意識
地理は全ての分野が何か他の分野と関係しています。例えば、大地形の知識から石炭や石油、鉄鉱石などの分布を推測できますし、このようなエネルギー資源の分布は工業の立地と関わり、工業は貿易などの国際関係にも繋がってきます。
このように全ての基礎的な分野の知識を有機的に覚えておくことで、東大地理でも与えられた語句をヒントに次々と知識を繋げていい答案がかけるようになります。
例えば「オーストラリア」「工業製品の輸出」というキーワードを使って論述をしてみましょう。
オーストラリアといえば、東側の海沿いが古期造山帯、その他の大部分が安定陸塊ですね。古期造山帯では石炭、安定陸塊では鉄鉱石が典型的な産出資源です。工業製品はこれら2つを利用して作られますが、オーストラリアの地図をイメージするとわかるように、砂漠地帯を挟んで西側で鉄鉱石、東側で石炭が産出します。
さらに、オーストラリアの都市といえば総じて東側に位置しています。そうなると、工業製品を作るには西側の鉄鉱石を東側へ輸送しなくてはいけませんが、それには多額な費用がかかるとともに、オーストラリアの近辺にはそんな工業製品を輸入してくれる大国がありません。
したがって、オーストラリアは工業製品の輸出が盛んではなく、鉄鉱石や石炭をそのまま輸出することが多くなっています。
これらの知識をまとめると
オーストラリアは鉄鉱石や石炭といった資源が産出するが、国内市場が狭く、近隣諸国にも大市場がないこと、資源の産出地が離れていて工場まで輸送するのに多額の費用がかかるといった理由から、工業製品の輸出はそれほど多くない。
といった論述を書くことができますね。
このように、地理の論述は基礎知識を繋げ合わせることで解答が出来上がります。まずは簡単なワードを使って地理的現象を説明してみることからはじめ、問題集でより高度な論述に挑むのがおすすめの勉強法です。
問題演習では歴史や文化の背景をイメージ
頻出分野紹介でも触れましたが、論述では特に年表が関連した表が出題され、歴史的な知識が重要になる場合が多々あります。
そのため、ざっくりと戦後の大きな流れを意識しておく必要があります。リーマンショックのような経済的な大きな変化があった年ももちろんですが、特に日本地誌においては東日本大震災などの大きな自然災害が発生した年も知っておくといいですよ。
東大ではかつて大型バスが減ったこととその時代背景を元に、東京ディズニーランドが建設されたことと社員旅行をする機会が減ったことを想起するような問題も出題されました。そこまで密に記憶する必要はありませんが、案外年代も重要であることはしっかりと意識してほしいですね。
文化についても同様です。どんな服を着るか、どんな言語を話すか、どんな宗教を信仰するか、どんなものを食べるか、全て重要です。これらは地理の基本的な知識ですが、直接的に問われていない場合でも「この国の文化は〜という特徴がある」と意識するだけでいい答案につながります。
例えばフィリピンはスペインの植民地だった歴史からカトリックが優勢であり、アメリカ統治の影響で英語が話されています。そのため南部に存在するイスラム教徒との間に軋轢がある他、アメリカに出稼ぎに行く人なども多いです。
このように、常に文化的背景を意識することで見えてくる現象が多くなります。既存の知識の理解を深めることにも役立ちますし、知らない現象について問われたときも想像力でその背景を説明することができます。
論述を書くときは配点を意識
先ほども書きましたが、東大地理では2行で3点、3行で4点を意識して問題を解くことをおすすめします。
この配点自体は模擬試験でよく採用されているもので実際の入試ではよくわかっていませんが、論述問題では点数になりそうな事項を頭の中で一旦書き出してから実際に解答するべきです。
つまり、自分の答案を客観的に読んだとき、3行問題なのに重要なポイントが1つしかなければ、確実に減点にされると考えましょう。大学側もあえて字数を示しているわけですから、むしろそれをヒントにすることで高得点につながりやすくなります。
これは問題集の解答を読む際も同じです。「この答案の要点はどれか」という視点を持つことで、より学習すべき事項が明確になり、深い学習につながりますよ。要点として上がっているのに知らなかった、または推測できなかったことがあれば重点的に解説を読み、資料集の関連ページを確認することで、類題が出題されたときも対応しやすくなります。
最後に
ここまでで非常に詳しく東大地理の形式、頻出、おすすめ参考書、対策法について書いてきましたが、いかがでしたでしょうか?
東大地理はもちろん難しい問題も多いですが、ほとんどの問題が基本的な知識を基盤にして構成されています。古い問題から新しい問題まで解いてみると、地理を通して世界の大きな流れや各地域のおもしろい文化、日本の盛衰までを学ぶことができる良問がそろっていると気付かされますね。
東大地理では、並みの入試問題では求められない「データの読み取り能力」「論理的推理力」「知識運用能力」の3つを求められています。一朝一夕では身につかないこの力は、大学に入ってから必ず役に立ちますから、ぜひ一生懸命東大の地理と向き合って、合格のみならず自分の能力向上に役立ててほしいですね。
この記事を通してよりみなさんの「学びたい」という意欲を刺激し、さらなる学習へと繋げていけたら幸いです。
最後まで合格を目指し、頑張ってください。
東大の他の社会科目についても詳しく解説しているので、あわせてご覧くださいね。