【身体・環境論】早稲田大学人間科学部の授業紹介〜脳の外部で働く心⁉︎〜

早稲田大学人間科学部の「身体・環境論」とは?

「身体・環境論」とは?

「身体・環境論」は、早稲田大学人間科学部で開講している心理学系の講義の一つです。

普通、心理学と言えば人の心理状態を測定したり、人の行動と心理との関係を実験したりする講義をイメージしますよね。

しかし「身体・環境論」は、普通イメージされる心理学とはかなり違っています。

「身体・環境論」では、脳を外界から独立した存在とは考えず、心と身体・環境との相互関係性について、過去の文献資料を読みながら考察していきます。

脳は、身体や外界の環境とどのような関係にあるのか__みなさん、知りたくありませんか?

そこでこの記事では、早稲田大学人間科学部の「身体・環境論」の実態について筆者の実体験を基に紹介し、一風変わった心理学学習の様子をレポートします。

早稲田大学人間科学部で学べる心理学に、少しでも興味を持っていただければ幸いです。

「身体・環境論」の授業はどんな感じ?

この記事では、2020年度春学期に早稲田大学人間科学部で開講された「身体・環境論」について紹介します。

対面で講義していた2019年度以前と違って、2020年度は全てオンライン講義となりました。

今後の大学の授業予定は未定ですが、仮に今後対面授業が復活する場合、この記事で紹介する2020年度の形式とは全く異なる講義が行われる可能性があります。予めご了承ください。

「身体・環境論」の授業形態

2020年度の「身体・環境論」は、前年度(2019年度)とは違って全てオンライン形式で実施されました。

まず1時間半〜2時間程度の講義動画を視聴し、その講義の感想を書き、オンライン上で提出します。

講義の感想は、履修者全員の分が読めるようになっており、履修者は提出された感想を読んだ上で、面白いと思った感想にコメントをつけなければなりません。

「講義を視聴する→感想を書く→他の履修者の感想にコメントをつける」までがワンセットの課題で、第1回から第15回までの全ての回でこの課題が与えられます。

この課題の評価が、全体の評定の50%を占めますので、忘れずに講義を見て感想を書き、コメントをつけることが大事です。

残り半分の評定は、第15回に課される期末レポートで決まります。

期末レポートに書く内容は

  1. 全15回の講義内容のまとめ(1400字〜1600字)
  2. 講義で紹介された議論に対する批評(1400字〜1600字)

です。本文の書き方から提出ファイルの形式まで細かく規定されているので、事前に配布される注意事項によく目を通しておきましょう。

課題は多いですが、真面目にこなせば大体の人は最高評価(A+)をもらえるようになっています。

実際、2020年度春学期の「身体・環境論」は約半分の履修者がA+を獲得していました。

普通の講義でA+を獲得するのが全体の1割〜3割であることを考えれば、比較的高評価が与えられやすい科目であると言えますね。

「身体・環境論」の授業風景

授業形態や課題の説明が終わったところで、実際の授業風景を見ていきましょう。

「身体・環境論」全15回の講義は、大別して2つに分けられます。

1つが、第2回から第8回までの「行為篇」で、もう1つが第9回から第15回までの「知覚篇」です。

それぞれ「行為」と「知覚」をテーマとして、従来の心理学の考え方と新しい心理学の考え方を比較し、どちらがより良いのか検討していきます。

口で説明してもイマイチ理解できないと思うので、以下で「行為」と「知覚」の心理学について簡単に説明しますね。

「身体・環境論」の授業風景①:行為篇

行為に関する古典的な心理学の考え方は「鍵盤支配型モデル」と呼ばれ、新しい心理学(生態心理学)の考え方は「協応モデル」と呼ばれています。

鍵盤支配型モデルとは、大脳が身体の全ての動きを一つ一つ指定しているとする考え方です。脳が、身体を「鍵盤」として支配しているということですね。

鍵盤支配型モデルは、脳を身体の動きから独立させて考える一般的なモデルですが、実は問題を抱えていました。

全ての身体の動きを個別に指定するために必要な情報処理は、実は大脳の中で処理することが到底不可能なほど膨大だったのです。

現実的に考えて、大脳だけで全ての身体の動きを統制することはできない。そこで登場したのが、「協応モデル」という新しい考え方です。

協応モデルとは、身体の動きは全て脳によって統制されているのではなく、個々の動きが連動しあって作用していると考える新しいモデルです。

協応モデルに従って考えると、大脳が処理する情報量は格段に少なくなります。

ただし、協応モデルの働き方については未解明の部分が多く、人間の身体の動きを網羅的に表現するにはまだ足りないのが現状です。

「身体・環境論」の授業風景②:知覚篇

知覚について、従来の心理学は「網膜に映った二次元の像を脳が処理して、三次元の情報を推論している」と考えていました。

しかし、二次元から三次元を推論する場合、推論の可能性が事実上無限にあることになり、網膜の像から三次元の現実を1つに特定するのは不可能になってしまいます。

そこで登場したのがウィリアム・ギブソンが提唱した「不変項」という考え方です。

ギブソンは、網膜に映る視覚像は身体の動きによって絶えず回転しており、その回転運動の中で「不変」な形(=不変項)が見出され、その「不変項」が対象の形として認識されると主張しました。

要するに、知覚された像は全て脳によって処理されるのではなく、脳が処理する以前に身体の運動によって見出されているというわけです。

脳で行われていると考えられていた処理を、脳の外側へ拡張して考える。なかなか面白い考え方だと思いませんか?

「身体・環境論」を履修することについて

「身体・環境論」の意味

「身体・環境論」を受講する最大の意味は、「当たり前」と考えられている脳と身体との考えを客観的に批評できる点にあります。

大多数の人は、自分の脳が自分の身体を動かしていると考えています。しかしその考え方には矛盾がある。そこで協応モデルや不変項のアイデアが必要になる。

協応モデルや不変項のアイデアによって、脳に関する古典的な考え方を批判的に捉えられ、自分の行動や心理を普段とは違う角度から眺められるようになります。

普段とは違う視点で自分自身を見つめるとき、自分について新たな発見が得られるはずです。

自分のあり方に疑問を持っている人は、ぜひ「身体・環境論」を受講して、自分の身体と心の働きの関係を考えてみてほしいと思います。

「身体・環境論」の魅力

身体・環境論の魅力は、履修者の感想へコメントをつけていく課題にあります。

コメントは同一の感想に複数回つけることができるので、ある履修者Aの感想へ別の履修者Bがコメントをつけて、そのコメントに対して履修者Aが返答し……

と、チャット形式で話を進めることができるのです。

他人の感想にコメントをつけたり、他人がくれたコメントに返答したりしていると、少しずつ自分以外の意見の正しさが見えてきて、格段に視野が広がります。

単純に講義を聞くだけでなく、講義の内容を別の履修者と議論することで、内容がより深く頭に入ります。

皆さんもぜひ積極的に議論して、心理学への見識を深めてくださいね。

「身体・環境論」でおすすめの本

最後に、これから「身体・環境論」を履修する予定のある人におすすめの本を2点紹介します。

新しい心理学の基礎知識を手早く学べる参考書を紹介するので、参考にしてみてくださいね。

  • エドワード・S・リード『アフォーダンスの心理学—生態心理学への道』佐々木正人・細田直哉訳、新曜社、2000年。
  • ジェームズ・J・ギブソン『生態学的知覚システム—感性をとらえなおす』佐々木正人・古山宣弘・三嶋博之訳、東京大学出版会、2011年。

【A philosophy of human science】大学の授業紹介(早稲田大学人間科学部)

2020.11.27



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