はじめに
「文学部は社会の役に立たない、だから不要だ。」という話を聞いたことはありませんか?
最近、このような論調が増えているように感じます。
また、「文学部に入ったら就職できないよ!」という噂を聞くことも多いです。
今回は、文学部をはじめとする人文系の学部が本当に不要なのか、そして就職に不利に働くのか、現役の文学部生として考察していきます。
目次
そもそも文学部はどんなところ?
文学部は幅広い分野の研究室の集合体
まず、文学部はどんなところなのかを簡単に説明したいと思います。
一口に文学部といっても、その実体は研究室の集合である場合が多いのです。
経済学でも法学でもない研究領域の研究室が、緩く連携しながら学部が構成されています。
具体的には、西洋思想や東洋思想、言語学、宗教学、歴史学、心理学、美学、文学、社会学など、幅広い分野の研究室が存在しています。
一見「文学」とは関係の無さそうな、心理学や社会学まで文学部に属していることに驚いた人も多いのではないでしょうか。
また、それぞれの学科・研究室の独立性が高いのも特徴です。
例えば、東大の文学部の様子が以下の記事で紹介されています!
文学部は本当に不要?
それでは、文学部不要論について考えていきます。
日常生活で「役に立つ」と感じることは少ないかも
文学部で学ぶ人文学と違って、経済学や法学は日常生活で役に立つと感じることが多いです。
なぜなら、人間の営みのなかの衣食住と強烈に結びついているからです。
例えば経済学であれば、個人の消費行動や景気の動向まで分析できます。
現代社会においては、あらゆるものを「お金」でやりとりするので、経済学は日常生活で役に立つでしょう。
また、法学は、法律が生活の行動規範に関するルールの総体であると考えれば、当然役に立つと言えそうです。
また、政治学を専攻しても、やはり政治の知識は生活のさまざまな側面で実用性の高さを実感する機会は多いと思います。
対して文学部で学ぶ人文学は、人間の生存に直結するような分野とは離れている人間の営みを捉えようと試みる学問だと思います。
ですから、日常のなかで文学部での学びが役に立つと感じる場面は少ないでしょう。
哲学など、人文学系の学問に興味がある人には以下の記事がオススメです!
しかし「日常生活で役に立たない=不要」ではない!
文学部は生活に根ざした有用性を発揮しないかもしれませんが、そのことで文学部での学びに意義がないと断じていいのでしょうか。
私は一介の学部生にすぎないので、「文学部には意義があるのだ!」と言う資格はないかもしれません。
しかし事例として、社会が変動や危機に直面したときに人文学が果たした役割も無視できないのです。
幕末維新期、日本社会を主導したエリートは人文学の知識を多く活用しました。
宗教改革という形でヨーロッパ世界の抜本的変質をもたらしたのも、現代的なカテゴリーでは人文学者といっていいでしょう。
このように、現代だと役に立たないと表現されがちな文学部での学びが役に立つ局面もたくさんあります。
また、考えてしまう生き物である人間にとって、文学部は非常に重要であるように思えます。
なぜなら、文学部では自分の知性と興味をもとに、一つの事柄について考え続けるからです。
知的な関心から人間が自由になることができない以上、役に立たない領域が意義のないものとして排除される社会はやはり間違っているのではないでしょうか。
文学部不要論が孕むのは、人文学という学問そのものの危機というより、人間が己の知性から目を背けてしまうことに抵抗を示さなくなる危険とも言えるかもしれませんね。
文学部の就職は不利?
文学部のせいで就職不利になるということはない!
文学部は就職できない、などという噂が巷には溢れています。みなさんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、実際のところは、文学部の就職活動が他学部と比べて不利だとは言えないと思います。
最難関大学の文学部からは、総合商社や財閥系デベロッパー、戦略コンサルティングファーム、外資系投資銀行などに毎年一定数の内定者が出ています。
これらの業界は、人気だが採用人数がごく少数なので、一般的に就職が難しいとされているのにも関わらずです。
例えば、令和3年度東大文学部卒業生からは、マッキンゼー、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、三菱商事、三井物産、伊藤忠、丸紅、三井不動産など、人気企業に就職する人がいました。
出典:東京大学大学院人文社会系研究科・文学部、文学部の就職状況
また、私立大学の文学部でも、総合商社をはじめとして、金融、メディア、コンサルなど幅広い進路がみられます。
そもそも、教育業界やメディアなど文学部ならではの就職先を希望する人も多いので、経済学部や法学部より不利とは言えないです。
就職について気になっている人は、自分が志望する大学のHPで卒業生の就職先を必ず確認してください!
進路の自由度が高いので、そもそも就職しない人が多い!
文学部の学生は他学部と比べて、就活をそもそも重視していない人が多いように感じます。
早期から就活に動くよりたくさん研究しようという雰囲気が文学部を取り巻いているように思うのです。
実際、令和3年度における東大の文学部卒業生は345人ですが、そのうち就職者は221人で、非求職者のうち85人は大学院進学を選択しています。
出典:東京大学文学部、2021年3月卒業生の進路
文学部の就職が見劣りするように思えてしまうのは、こうした雰囲気が原因とも言えそうです。
進路の自由度が高いために、文学部の就職は不利という風評が立つのかもしれませんね。
早期から就活に動くもよし、好きな本を読みふけったり研究するもよし、海外に留学するもよし、多様な過ごし方と進路を選べるのが文学部の魅力と言えます。
文学部の雰囲気や学ぶ内容など、詳細を知りたいという人には以下の記事がオススメです!
おわりに
以上、巷の文学部に関する否定的な言説に対して、とりわけ実用と意義、就職という方面から検討してみました。
文学部を志望している受験生は、文学部に行くことに対して不安に思ったり、周りに不安を持たれたりすることもあるかもしれません。
しかし私は、文学部に行きたいなら行った方が良いと思います!
自由度は高いし、就職も文学部のせいで不利になることはあまりありません。
なにより、興味や関心に従属できるのは大学生の特権です。かけがえのない4年間を望まない進路で棒に振るのはあまりにもったいない……。
この記事を読んだ人の気持ちが少しでも前向きになれば幸いです。