はじめに:漢文の助字についてわかりやすく!
みなさん、漢文には「助字」と呼ばれる文字があるのをご存知ですか?
助字とは、現代語訳の問題によく出てくる「且」や「而」のような文字のことです。
助字は地味なので見逃してしまいそうですが、助字の意味を取り違えると文の意味が全く変わってきてしまいます。
みなさんの中にも、助字の意味を誤解したせいで、現代語訳の問題を間違えた経験がある人は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、地味だけど重要な助字について、初学者にもわかりやすく解説します!
漢文を正確に読めるようになりたい人は、ぜひ最後まで読んでみてくださいね〜。
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目次
漢文における助字
「そもそも助字って何だったっけ?」という方のために、まずは助字の意味について紹介します。
漢文における助字の意味
前野(2018)によると、漢文が実用されていた時代、中国人は自分たちの言葉を大別して2つに分けていました。
その1つが「実字」です。実字とは、「山」や「川」などのように、その言葉だけで意味が明確に決まる言葉のことを指します。
その実字と対になるのが、もう1つの「虚字」です。この虚字が、今でいう「助字」に相当しています。
虚字は実字と違って、その言葉だけでは意味をなさない言葉です。日本語の「てにをは」に当たる言葉ですね(以上、前野p94)。
漢文における助字の重要性
虚字=助字は、実字と違って単独で意味を持たないから重要度が低いかと言うと、決してそんなことはありません。
むしろ助字は、「てにをは」のように文の意味の方向性を決定づける言葉なので、文の意味の根幹をなす非常に重要な言葉なのです。
というわけで、漢文の読解に自信がない人は、まず助字だけでもマスターしてくださいね。
漢文で間違えやすい助字5選
ここからは、頻出なのに間違えやすい助字を5つ選んで紹介します。
この記事で紹介する助字は以下の5つです。
且・乎・以・而・何
今パッと見て、意味の取れない言葉はあるでしょうか。
意味がわからない言葉があれば、その言葉から記事の内容を読んでくださいね。
漢文で間違えやすい助字①:且
並列(かつ)
助字「且」は、並列(Aであり、Bである)の意味で頻繁に用いられます。
この意味で「且」が用いられる場合、意味は「かつ」になります。
使用例は以下の通りです。
- 白文:河漢清且浅
- 書き下し文:河漢清くかつ浅し
- 意味:天の川は澄んでいて、かつ浅い
譲歩(かつ)
「且」は、譲歩(〜ですら)の意味でも使われます。
この場合も、読み方は「かつ」になります。
使用例は以下の通りです。
- 白文:死馬且買之
- 書き下し文:死馬すらかつこれをかふ
- 意味:死んだ馬ですら買う
ちょうど…する(まさに…す)
「且」は、再読文字として使われる場合もあります。
その場合、読み方は「まさに…(せんと)す」になり、「ちょうど…する(しているところだ)」という意味になります。
最後の「す」は、送り仮名が振られていないので、書き下すときに忘れないようにしましょう。
使用例は以下の通りです。
- 白文:且死亡
- 書き下し文:まさに死亡せんとす
- 意味:ちょうど亡くなろうとしている
漢文で間違えやすい助字②:乎
まして…は、なおさらだ(や・か)
「乎」は、「況…乎」(いわんや…をや)で「まして…は、なおさらだ」という意味になります。
語末の「や」には送り仮名が振られない場合が多いので、読み方を忘れないようにしましょう。
使用例は以下の通りです。
- 白文:況生者乎
- 書き下し文:いわんやいけるものをや
- 意味:まして生きている者ならなおさらだ
…のようだ(こ)
乎は、「呼」という漢字から推測できる通り、もともと漢語では「こ」と読まれる漢字です。
乎が「こ」と読まれる場合、意味は「〜のようだ」になります。漢字をひらがなに直す必要はありませんが、読み方には注意しておきましょう。
使用例は以下の通りです。
- 白文:飄飄乎
- 書き下し文:飄飄乎として
- 意味:ふわふわとしているようで
原因(読みなし)
乎は、発音されない助字(置き字)として利用されるケースもあります。
意味のある助字として使われる場合、その意味は「原因」になります。
詳しくは以下の使用例をご覧ください。
- 白文:雖死乎此
- 書き下し文:ここに死すといえども
- 意味:このことが原因で死んだとしても
意味なし(読みなし)
頻度は少ないですが、乎は意味も読みもないただの添字として使われる場合があります。
詳しくは以下の使用例をどうぞ!
- 白文:於従政乎有何
- 書き下し文:政に従うに於いて何か有らん
- 意味:政治に従う以外に何が有るだろうか(いや、ないだろう)
漢文で間違えやすい助字③:以
原因・理由(もって、もってす)
「以」は、「もって、もってす」と読む助字です。この「以」の最もスタンダードな意味が、原因と理由になります。
詳しくは以下の使用例をご確認ください。
- 白文:以不相愛生也
- 書き下し文:相愛せざるを以て生ずる也と。
- 意味:お互いに愛さないことによって生じるのだ、と。
手段・対象(もって、もってす)
「以」の意味で、原因と理由の次に頻出なのが、手段と対象です。「〜を用いて」ということですね。
読みは「もって・もってす」のままです。詳しくは以下の使用例をご参照ください。
- 白文:召我以煙景
- 書き下し文:我を召くに煙景を以てし
- 意味:霞みが漂う景色によって私を招いて
漢文で間違えやすい助字④:而
順接
「而」は、特に送り仮名が振られていない場合、読みはありません。
この「而」は、全く違う2つの意味を持つ助字です。「而」が順接の意味を持つ場合もあれば、逆接の意味を持つ場合もあります。
順接の場合の使用例は以下をご覧ください。
- 白文:如羽化而登仙
- 書き下し文:羽化して登仙するが如し
- 意味:羽が生えて仙界へと登っていくかのようだ
逆接
「而」には、上で紹介した順接の意味の他に、逆接の意味があります。
どちらの意味になるかは文脈次第なので、前後の文を読んでから意味を推察しなければなりません。
逆接の意味になるのは、例えば以下のような場合です。
- 白文:舟已行。而剣不行。
- 書き下し文:舟已に行けり。而も剣は行かず。
- 意味:舟はすでに行ってしまった。しかし剣は行っていない(動いていない)。
漢文で間違えやすい助字⑤:何
反語(なんぞ)
「何」は「なんぞ」と読まれる助字です。主に、反語(〜だろうか。いや〜ない)の意味で使われます。
詳しくは以下の使用例をご覧ください。
- 白文:帝力何有於我哉
- 書き下し文:帝力何ぞ我に有らんや
- 意味:帝の力など、私たちに何の関係があろうか(いや、何の関係もない)
感嘆(なんぞ)
「何」は反語の意味で用いられる場合が多い一方で、感嘆(なんと…だろうか!)の意味でも用いられます。
感嘆の意味になる部分を反語で訳すと、意味が正反対になるので注意しましょう。
使用例は以下の通りです。
- 白文:洛陽何寂寞
- 書き下し文:洛陽何ぞ寂寞たる
- 意味:洛陽の街の、なんと寂しいことか!
おわりに:助字がわかれば漢文がわかる!
いかがでしたか?
この記事では、漢文に出てくる言葉の中でも特に重要な助字について解説し、間違えやすい助字を5つ紹介しました。
この記事で紹介したもの以外にも、助字はたくさんあります。
助字の意味を正確に取れるようになれば、自然と漢文の読解力が向上してくるので、ぜひ助字を学習してみてくださいね。
それでは!!