はじめに
みなさんは、薬学部で実際にどのような勉強をするか知っていますか?
漠然と「薬について」学ぶというイメージだけで、具体的に知っている人は少ないのではないでしょうか?
今回は、現役薬学部生がこれまで受けてきた授業を簡単に紹介します。
「こんなことも学ぶんだ!」と思うような、意外な内容もあると思うので、楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
最後まで読んだら薬学部への理解が深まること間違いなし!
目次
薬学部入学から卒業までの授業の流れ
この記事では、慶應義塾大学薬学部で行われている、6年制学科の必修授業を紹介します。
ちなみに、薬剤師国家試験受験のために、病院・薬局実習などの実務を学ぶかどうかが、6年制学科と4年制学科の主な違いです。
6年制学科のカリキュラムは下図のような構成です。太字になっている授業は、後で授業内容や魅力を解説します!
授業は、大きく基礎科目・専門科目・実務科目の3つに分けられます。
基礎科目は、専門科目が始まる前に学ぶ理系共通科目です。
多くは、高校理科の延長線上にある内容であり、1〜2年次に勉強します。
基礎科目は、「有機・創薬化学分野」、「物理・分析化学分野」、「生命科学分野」の大きく3つのジャンルに分けられます。
専門科目は、基礎科目をベースとして、より薬を中心とした内容になります。2〜3年次に受ける授業が多いですね。
実務科目では、基礎科目や専門科目を踏まえ、臨床現場を想定した、より実践的な内容となります。3〜4年次に設定されている授業がほとんどです。
薬学部の授業紹介
【薬学部の授業】①医薬品化学
「医薬品化学」は、有機・創薬化学分野の科目の一つで、2年〜3年次に受ける授業です。
大学の有機化学は、高校の有機化学分野を発展させた内容ですが、大学では、化学反応が起こる理由に着目する点が高校までとは異なります。暗記よりも法則を適用させる思考力が求められます。
授業では、高校の生物基礎でも登場するアドレナリンやアセチルコリンなどの「体内物質の化学構造」や「体内の物質と薬がどのような化学反応を起こして作用するか」を学びます。
交感神経作用を強める薬の一つであるサルブタモールという薬を例に、授業内容を簡単に紹介します。
交感神経の神経伝達物質であるアドレナリンとサルブタモールの分子形を比較すると、なんとなく似ていますよね!
サルブタモールは、体内でアドレナリン受容体に結合して、交感神経の働きを強めると考えられます。
「医薬品化学」の授業ではこのように、体内のシグナル物質と似た分子形の化合物が薬となる例や他の作用機序などを学びました。
【薬学部の授業】②有機化学系実験
「有機化学系実験」は、2年次に行う、いわゆるフラスコや試験管を用いた、誰もがイメージする理系の実験です。
化合物を混ぜたり、熱したりして化学反応を起こして目的物質を作ります。
頭痛薬のイブプロフェンのもととなる化合物が配布され、何回かの合成反応を経て、自分たちでイブプロフェンを合成した実験が印象に残っています。
ただ、合成したイブプロフェンは不純物が多く、実際に飲むには危険だったので、先生に回収されてしまいました(笑)
合成した化合物の物性や濃度を測る際などに、物理・分析化学分野の知識も使います。
【薬学部の授業】③微生物学・微生物学実験
「微生物学」は、2年次に受ける専門科目で、細菌の分類や特徴、病原性について学びます。黄色ブドウ球菌や大腸菌など、ニュースでたまに耳にする細菌のことが詳しくわかるようになりました。
薬学部で細菌について学ぶのは、抗菌薬の理解に役立つからです。みなさんも発熱時に抗菌薬(抗生剤とも呼ばれます)を飲んだことがあるでしょうか?
抗菌薬は、基本的に、細菌にあってヒト細胞にないものを標的として作用します。
例えば、細菌は細胞壁を持つのに対し、ヒトの細胞は細胞壁を持ちません。
そこで、細胞壁合成酵素を阻害する物質を薬として使えば、ヒトの細胞を傷つけることなく殺菌できます。
これが医学で最も重要な発見の1つとされる抗菌薬である、ペニシリンの作用機序です。
さらに「微生物学実験」では、様々な寒天培地で細菌を培養して、細菌の見分け方を学びました。実習とはいえ、細菌を実際に扱うのは、結構緊張しました。
寒天培地や細菌の種類によって、増殖する細菌や寒天培地の様子が変わるので、培地を観察することで、細菌を見分けることができます。
このように「微生物学実験」では、「微生物学」で学んだ知識を復習しつつ、臨床現場や研究で使われている培養手法を体験しますよ。
【薬学部の授業】④薬物動態学
薬が吸収され体内に分布した後、分解・排泄されるまでの流れを学ぶ「薬物動態学」は、2年〜3年次に受ける専門科目で、薬学部ならではの授業だと思います。
多くの薬は腸で吸収、肝臓で分解されて、腎臓から尿中に排泄されますが、薬によってその過程やスピードは様々です。
飲んですぐ効く薬、効くまでに時間がかかる薬、食後に飲む薬、空腹時に飲む薬などと薬によって効き方が異なるのは、吸収から排泄までの過程が異なるためですよ。
また授業では、薬の飲み合わせについても学ぶので、薬同士や食品との飲み合わせに注意が必要な薬について、その理由を理解できます。
服薬中にグレープフルーツを摂ってはいけない薬があるのは有名な話ですよね。
グレープフルーツはそれらの薬の分解を阻害するので、体に入る薬の量が通常よりも増えてしまいます。
血中濃度が上がると、薬の効き目や副作用が強くあらわれやすいため、グレープフルーツを避ける必要があるのです。
【薬学部の授業】⑤環境科学
専門科目には、他にも「栄養学」や「環境科学」などの衛生薬学領域の授業があります。
「環境化学」の授業では、大気・水環境などの地球環境や室内環境基準について学びました。
PM2.5や窒素・硫黄酸化物などに代表される、空気中の汚染物質の環境基準値とその測定法を覚えたり、廃棄物の分類を学んだりします。
学校薬剤師という、室内環境整備の知識を生かして教室内の換気や照度測定、プールの水質検査などを行う職業もあります。
学校薬剤師を含めて衛生薬学自体があまり知られていませんが、病気の治療だけでなく、普段の生活に近いところで健康を守ることも薬剤師の役割の一つなんです!
【薬学部の授業】⑥薬事関係法規
「薬事関係法規」は、3年次に学ぶ実務科目の一つであり、薬の開発や規制に関わる法律・省令を学びます。
具体的には、薬の開発から承認・発売までの流れ、市販後の安全性確認に関する調査制度などを勉強します。
新薬は、製薬企業が厚生労働省に承認申請を出し、厚生労働省管轄の機関が審査を行います。
審査では、実験(非臨床)での効果と治験(実際に人が薬を飲んで、有効性と安全性を確かめる臨床試験)結果をもとに、承認可否が判断されます。
この授業では、審査書類の内容、治験の流れや決まりなど、覚えることが大量にあります。
一方で、薬の有効性・安全性の評価には、統計的手法が用いられるため、基本的な統計学の授業も受けました。薬学部で統計学の授業があるのは意外ですよね!
治験では、患者さん全員に新薬を試せないため、一部の患者さんの治療結果から、患者さん全体でも有効性があるといえるか、判断しなければいけません。
また、同じ薬を飲んでも、薬の効きには個人差があるので、治験のやり方や解析方法次第で、得られる結果が大きく変わってしまいます。
そこで、より正しい(真実に近い)結果が得られるような治験を計画し、解析するために統計的手法が必要となるのです。
おわりに
いかがでしたか?
薬の勉強に特化していると思いきや、薬を中心に、化学生物系の幅広いジャンルを学ぶのが薬学部の特徴といえるかもしれません。