はじめに
加法定理は三角関数を扱う上で、最も基本的な定理です。
加法定理を全く知らない人から、塾や授業で理解しきれていない人のためにも加法定理の公式やその証明、使い方のコツを詳細な解説と例題を通してお伝えします。
この記事を最後まで読むと、加法定理に関して怖いものはなくなります!
目次
加法定理の公式【sin・cos編】
正弦(sin)、余弦(cos)の加法定理の公式は以下の通りです。
大学受験では必須の公式ですので、必ず暗記してください。
tanの加法定理の公式はこちらの記事で確認してください!
加法定理を使うと何ができるのか。
例えば、sin75°という値を求めることを考えてみましょう。
75°という角度は、一見中途半端な角度に思えますが、
75°=45°+30°と考えて加法定理を適用すると、
$$\sin 75°=\sin (45°+30°) \\
=\sin 45° \cos 30°+ \cos45° \sin30°$$
上記のように、有名角のsin・cosに分解することができます。
これが加法定理の威力です。三角関数の可能性が広がりますね!
実際には、このような具体的な角度を求める場合だけでなく、他の多くの定理を導くときにも用いるとても重要な定理です。
加法定理の証明
加法定理の証明は東大の入試問題にもなったことがある
これから加法定理の証明を行います。
なんと加法定理の証明は、1999年に東京大学でも出題されました。
だからといって、加法定理の証明は特別難しいわけではありません!
基本的な知識で証明することができますので、一緒に見ていきましょう。
なお、証明の中でも説明が必要なところは黄色い欄で解説してますので、数学が苦手な人も安心してくださいね。
加法定理の証明をわかりやすく解説
上記の図のように、単位円上に点A,Bがあり、OAとx軸がなす角度をα、OBとx軸がなす角度をβとする。
この時それぞれの点の座標は、\(A(cosα、sinα)、B(cosβ,sinβ)\)となる。
三角形OABに関して、余弦定理より
\begin{align}
AB^{2}&=OA^{2}+OB^{2}-2OP・OQcos(α-β) \\
&= 1^{2}+1^{2}-2・1・1cos(α-β) \\
&= 2-2cos(α-β) (1)
\end{align}
が成り立つ。
また、点A,Bに関して距離の公式より、
\begin{align}
AB^{2}&=(cosα-cosβ)^{2}+(sinα-sinβ)^{2} \\
&= 2-2cosαcosβ-2sinαsinβ (2)
\end{align}
が成り立つ。ここで、(1),(2)を連立すると
\( cos(α-β)=cosαcosβ+sinαsinβ (3) \)
が成り立つ。
また、最初に紹介した4つの加法定理のうち、余弦(cos)で符号が負のものが証明できています。
残り3つの証明はこの式を変換していくだけなので、実は難しくありません!
(3)について、βを-βに置き換えると
\( cos(α-(-β))=cosαcos(-β)+sinαsin(-β) \)
となる。
ここで、\(cos(-β)=cosβ,sin(-β)=-sinβ\)であるから、上記の式は
\( cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ (4)\)となる。
cos→sinの変換も三角関数の基本的な性質から導けますね。
ここで、\(αを\frac{π}{2}-α\)に置き換えると
\( cos(\frac{π}{2}-α+β)=cos(\frac{π}{2}-α)cosβ-sin(\frac{π}{2}-α)sinβ \)
となる。ここで、\(cos(\frac{π}{2}-α)=sinα,sin(\frac{π}{2}-α)=cosα\)であるから
\( sin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ (5)\)
が導かれる。また、βを-βに置き換えると
\( sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ (6)\)
が成り立つ。(証明終了)
加法定理の公式の覚え方
次に公式の覚え方を紹介します。
加法定理で1番有名な覚え方は以下のようなものです。
加法定理の公式を覚える上での注意点は、sinとcosで右辺の符号が異なることです。
符号のミスが無いように気をつけましょう。
また、右辺は常にα、β、α、βという順番になっています。
誤って\(sin(α +β)=sinαcosβ+cosβsinα\)といった間違いをしないように注意しましょう。
ゴロでの覚え方では、他にも…
・サンタは最高、コッソリ侵入
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
sin(+)でサンタです。
・コサインはいつもコソコソ、みんな興味津々
cos(α+β)=cosαcosβ-sinαsinβ
みんな、で-(minus)です。
・幸子 小林 小林 幸子
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
などがあります。
自分の覚えやすいものや気に入ったもので、丸暗記してください!
加法定理の語呂合わせを詳しく紹介した記事もあわせてご覧ください!
加法定理の使い方
公式を覚えて証明を学んだところで、実際に加法定理を使ってみます。
加法定理の使い方~有名角の場合~
すでに例を上げsin75°と同様、cos105°、sin15°などは、30°・45°・60°などの有名角の値を元に求めることができます。
実際に、cos105°の値を求めてみましょう。
\begin{align}
cos105°&=cos(60°+45°) \\
&= cos60°cos45°-sin60°sin45° \\
&= \frac{1}{2}・\frac{1}{\sqrt{2}}-\frac{\sqrt{3}}{2}・\frac{1}{\sqrt{2}} \\
&= \frac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{4}
\end{align}
加法定理を利用することで簡単に求めることができましたね。
加法定理の使い方~一般角の場合~
以上は有名角を利用したものでしたが、次の場合はどうでしょう。
問題
αは第2象限の角、βは第3象限の角とする。
$$ \sin α=\frac{3}{5} \\
\cos β=-\frac{1}{3}$$
のとき、
$$ \sin (α-β)$$
の値を求めよ
解答・解説
まずは素直に加法定理を適用してみましょう。
sinは「咲いたコスモス、コスモス咲いた」の順番でしたね。
\(sin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ\)
ここで代入して求めたいところですが、既知の値はsinαとcosβのみです。
与えられていないsinβ、cosαを先に求める必要があります。
こういうときに利用できる三角関数の性質はこれです。
\(sin^{2}θ+cos^{2}θ=1\)
それでは実際に解いてみましょう。
\(sin^{2}α+cos^{2}α=1\)
\(sinα=\frac{3}{5}を代入して\)
\((\frac{3}{5})^2+cos^{2}α=1\)
この式を整理すると
\(cos^{2}α=\frac{16}{25}\)
となります。
ここからが一番ミスが多いところなので注意してください。
cosα=4/5としたいところですが、cosαは-4/5かもしれません。
どうやって判断すればいいでしょうか。
ここで利用するのが問題文冒頭の条件です。
「αは第2象限の角とする」
つまり、cosα<0ということになります。
第2象限は、x軸負、y軸正の領域のことでしたね。
第1象限、第2象限がわからない場合は三角関数の性質から勉強し直すと良いでしょう。
よって、\(cosα=-\frac{4}{5}\)だとわかります。
同様にsinβも求めます。
\( sin^{2}β=1-cos^{2}β=\frac{8}{9} \)
「βは第3象限の角とする」となっているので、sinβは負です。
よって\(sinβ=-\frac{2\sqrt{2}}{3}\)となります。
あとは\(sin(α-β)=sinαcosβ-cosαsinβ\)この式に代入すれば答えを求めることができます。
まとめ
加法定理は公式を覚えていれば使えます。
「咲いたコスモス、コスモス咲いた」「コスモスコスモス、咲いた咲いた」と唱えてまずは覚えてしまいましょう。
その際に、sinとcosで符号が入れ替わることに注意してください。
また証明は、距離の公式と余弦定理を思い出せれば導けるので、距離の公式・余弦定理についても合わせて確認してくださいね。