はじめに:中線定理の公式・証明・使い方をマスターしよう
中線定理は中学では発展事項として、高校でも時々解法の一つとして登場するくらいの非常に高度なものです。
よく覚えておくべき公式集なんかに載っています。
高度なものではありますが、証明も中学生の内容で証明できます。
さらに、中線定理を知っておけば、センター数Ⅰ・Aの大問5(選択問題)で大いに時間を節約できます。
「面倒な図形の問題で、ショートカットをしたい!」と思っている人は、この記事で中線定理とその証明、使い方をマスターしましょう!
目次
中線定理とは
まずは中線定理について知りましょう。
中線定理は、三角形の中線の長さと辺の長さの関係を表す定理であり、パップスの定理とも知られています。
次の三角形をみてください。
\(\triangle ABC\)において、\(BC\)の中点を\(D\)とするとき、\[\style{ color:red; }{ AB^2+AC^2=2(AD^2+BD^2) }\]が成り立つ。
これが中線定理です。
次になぜこれが成り立つのかを説明していきます。
中線定理の証明
中線定理の証明には様々なやり方があります。
そのうちの今回は
- 三平方の定理を使う証明
- 初等幾何(今回は余弦定理)を使う証明
- ベクトルを使う証明
- 座標平面を使った証明
を紹介します。
この4つが一応高校までの内容で中線定理が証明できるやり方になります。
三平方の定理を使った中線定理の証明
三平方の定理は中学生で習うもので、こちらは中学生でもできる中線定理の証明となっています。
三平方の定理について、まず確認したい人はこちらを参照してください。
では、証明に入ります。下の図は先ほどの三角形です。
頂点\(A\)から底辺\(BC\)に下ろした垂線の足を\(H\)とおく。
\(\triangle ABH\)について、三平方の定理より
\(AB^2=AH^2+BH^2\)・・・①
\(\triangle ACH\)について、三平方の定理より
\(AC^2=AH^2+CH^2\)・・・②
①+②より、
\(AB^2+AC^2=BH^2+CH^2+2AH^2\)・・③
一方で、\(BH=BD-DH\)、\(CH=CD+DH\)、\(BD=CD\)より
\(BH^2+CH^2\)
\(=(BD-DH)^2+(CD+DH)^2\)
\(=(BD-DH)^2+(BD+DH)^2\)
\(=BD^2-2BD×DH+DH^2+BD^2+2BD×DH+DH^2\)
\(=2(BD^2+DH^2)\)・・・④
④を③に代入して、
\(AB^2+AC^2\)
\(=2(BD^2+DH^2)+2AH^2\)
\(=2BD^2+2(AH^2+DH^2)\)
\(=2(BD^2+AD^2)\)
(三平方の定理より\(AD^2=AH^2+DH^2\))
よって、\(AB^2+AC^2=2(AD^2+BD^2)\)が証明できました。
初等幾何を使った中線定理の証明
次は、余弦定理を使って証明してみます。
余弦定理について、確認したい人はこちらを参照してください。
では証明に入ります。先ほどと同じ図を載せておきます。
\(\angle ADB=θ\)(\(0<θ<180°\))とおく。
\(\triangle ABD\)において、余弦定理を用いると
\(AB^2=AD^2+BD^2-2AD×BD\cos θ\)
・・・①
が成り立つ。
また、\(\triangle ACD\)において、余弦定理を用いると
\(AC^2=AD^2+CD^2-2AD×CD\cos θ\)
・・・②
が成り立つ。
\(D\)は\(BC\)の中点であることより\(CD=BD\)
また、\(\cos (180°-θ)=-\cos θ\)
よって、②より
\(AC^2=AD^2+BD^2+2AD×BD\cos θ\)
・・・②'
が成り立つ。
ゆえに、①+②'より
\(AB^2+AC^2=2(AD^2+BD^2)\)となります。
ベクトルを使った中線定理の証明
\(\vec{ DA }=\overrightarrow{ a }\)、\(\vec{ DB }=\overrightarrow{ b }\)とおく。\(\vec{ DC }=\overrightarrow{ -b }\)である。
\(AB^2+AC^2=|\overrightarrow{ b }-\overrightarrow{ a }|^2+|-\overrightarrow{ b }-\overrightarrow{ a }|^2\)
\(=2|\overrightarrow{ b }|^2-2|\overrightarrow{ a }|^2\)
\(=2(AD^2+BD^2)\)
よって、\(AB^2+AC^2=2(AD^2+BD^2)\)となり、中線定理が証明できました。
座標平面を使った中線定理の証明
\(A(a,b)\)、\(B(-c,0)\)、\(C(c,0)\)、\(D(0,0)\)と点を設定する。
\(AB^2+AC^2\)
\(=(a+c)^2+b^2+(a-c)^2+b^2\)
\(=2(a^2+b^2+c^2)\)
一方、
\(2(AD^2+BD^2)\)
\(=2(a^2+b^2+c^2)\)
中線定理の両辺が\(2(a^2+b^2+c^2)\)となって一致するので、\(AB^2+AC^2=2(AD^2+BD^2)\)が成り立つ。
自分の好きなものを覚えて使ってくださいね。
中線定理を使った練習問題
では、中線定理を使うことで解くのが超簡単になる問題の例に取り組んでみましょう!
問題
\(\triangle ABC\)の辺\(BC\)の中点を\(M\)とする。\(b=4\)、\(c=6\)、\(A=60°\)のとき、線分\(AM\)の長さを求めよ。
問題の解答・解説
まずは、問題文の情報を図に直します。
中線定理が使えるようにするためには、「問題文の情報以外に何が分かればよいか?」と考えます。
中線定理の公式\(AB^2+AC^2=2(AM^2+BM^2)\)を眺め、わかっていないものは何かを見つけます。
今回は、\(AB\)、\(AC\)の長さは問題文で与えられており、\(AM\)の長さは求めるように要求されています。
ということは、残りの\(BM\)の長さが分かれば中線定理が使えるなと考えて、まずは\(BM\)の長さを求めようと方針を立てます。
\(BM\)の長さは\(A=60°\)という情報を使って余弦定理で求められそうです。
実際にやってみます。
\(\triangle ABC\)に余弦定理を用いて、
\(BC^2\)
\(=AB^2+AC^2-2AB×AC\cos A\)
\(=36+16-2×6×4\cos 60°\)
\(=28\)
\(BC>0\)より、\(BC=2√7\)
\(BM=CM\)より、\(BM=\displaystyle \frac{ BC }{ 2 }=√7\)
よって、中線定理を用いて
\(2AM^2\)
\(=AB^2+AC^2-2BM^2\)
\(=36+16-14\)
\(=38\)
\(AM>0\)より、\(\style{ color:red; }{ AM=√19 }\)
となります。
まとめ:中線定理が使える問題は限られている
いかがでしたか?
中線定理は便利な定理ではありますが、実はいざ使おうとしても意外と使える場面は少ない定理です。
練習問題では、初めから中線定理が使える前提で問題を出しましたが、実践的な場面では中線定理が使えるかどうかをきちんと見分けねばなりません。
中線定理は、図形の問題で詰まった時の最終手段として使うくらいのスタンスでいた方がよいと思います。
便利な定理だからといって闇雲に使ってしまい、むしろ落とし穴にはまらないように使える場面を冷静に見極める力も必要です。
たまにしか登場しない定理こそいざ出題された時に手が止まってしまいがちです。
なかなか使わない公式はしばらくすると忘れてしまうので、忘れたなと思ったらすぐに確認するようにしてくださいね。