絶対値の基礎的な知識と、絶対値を含む不等式について
絶対値は、中学数学で登場する概念です。はじめに絶対値をみたとき、誰でも頭に「?」が浮かんだことでしょう。
しかし、残念なことに絶対値という概念は、高校数学の最後まで文理関係なく付いてきます。
できることなら、早めに理解しておきたいものですね。
そこで、こちらの記事では絶対値の基礎的な知識や、絶対値を含む不等式について解説していきます。
高校数学において、最後まで意外と厄介な絶対値についての基礎知識を押さえておきましょう!
同じ絶対値でも、複素数を含めた絶対値についてお探しの場合は、こちらをご覧ください。
目次
絶対値とは?
まずは、絶対値とは何かを確認していきましょう。
言葉の定義としては「ある数があって、その符号を無視して得られる非負の値」のことをいいます。
とにかく絶対値の付いた数字は、符号を無視して正の数にしろというのがこの説明です。
具体的にいうと、\(8\)の絶対値は\(8\)、\(-4\)の絶対値は\(4\)、\(0\)に絶対値は\(0\)といった感じです。
この定義は、少し大雑把で応用が利きません。数は良いですが、絶対値の中身が文字だったらどうするかがわかりません。
そこで、またある別の定義として「ある数における、その数と原点までの距離」と説明したりもします。
よく教科書では、この解説が数直線とともに載っていたりしますよね。
絶対値についてある程度わかったところで、絶対値の表記の仕方について学んでいきましょう!
絶対値を表したいときは、単純に数や文字を\(\style{ color:red; }{ || }\)で挟みます。
例えば、\(5\)の絶対値は\(|5|\)、\(-2\)の絶対値は\(|-2|\)のように表します。
また、先ほどいったように、\(\pm a\)に絶対値は\(a\)なので\[\style{ color:red; }{ |\pm a|=a }\]ということになります。
そこで、簡単な問題を出すと\(|x|=3\)を解けという問題が考えられます。
これは、今までの解説通り方程式を解くと、\(x=\pm 3\)となり、解が2つ出てきます。
一次方程式なのに、解が2つ出てきておかしいのでは?と思って人もいると思います。
しかし、この疑問に対する答えは\(|x|=3\)という方程式の両辺を、2乗することで見えてきます。
絶対値記号は2乗をすることで外すことができます。つまり\(|x|^2=x^2\)ということです。
ということで、\(|x|=3\)の両辺を2乗すると、\(x^2=9\)になって馴染みのある二次方程式に帰着できました。
\(√\)(ルート)や\(||\)(絶対値記号)を含む問題で、どうにも式変形ができなくなったときには、2乗してみると意外と解決できたりするので試してみてくださいね。
最後に、絶対値の付いた関数のグラフについて説明しておきます。
これは至ってシンプルです。
絶対値の付いた関数のグラフを書くポイントを挙げておきます。
- まず絶対値のついていない場合のその関数のグラフを書く。
- 次に、そのグラフで\(y\)座標が負になっているところを\(x\)軸を対称に折り返す。
では、これに沿って\(y=|x-2|\)のグラフを書いてみましょう。
まず、①の通り普通に\(y=x-2\)のグラフを書きます。
これは大丈夫ですよね。
次に、②に従ってグラフが\(x\)軸より下にある部分を折り返します。
これで、\(y=|x-2|\)のグラフは完成です。
①と②の手順を覚えておきましょう。
絶対値についての、基本的な説明は以上になります。
絶対値の不等式の公式
次は、絶対値を含む不等式の基本的な公式を紹介していきます。
今から紹介する公式は、問題を解く中でとても大切なものばかりなので、しっかり確認しましょう!
これから出てくる\(a\)は、全て正だと考えてください(負の場合を考えると、\(a<x<-a\)などが出てきて複雑になるので省略します)。
- \(|x|=a\)を解くと、\[\style{ color:red; }{ x=\pm a }\]
- \(|x|<a\)を解くと、\[\style{ color:red; }{ -a<x<a }\]
- \(|x|>a\)を解くと、\[\style{ color:red; }{ x<-a,a<x }\]になります。
②の証明だけしようと思います。③も②と同様にできるので、各自やってみてください。
基本的に絶対値の付いた不等式の証明は、場合分けをすることが多いです。
どのように場合分けをするかというと、絶対値の中身が\(0\)以上か、負かで場合分けをします。
\(|x|<a\)を解いていきます。
(1)\(x≧0\)のとき、\(|x|=x\)
よって、\(|x|<a\)は\[x<a\]である。
\(a\)は正、かつ\(x≧0\)なので、\[0≦x<a・・・①\]
(2)\(x≧0\)のとき、\(|x|=\style{ color:red; }{ – }x\)
よって、\(|x|<a\)は\(-x<a\)となり、\[-a<x\]である。
\(a\)は正、かつ\(x≧0\)なので、\[-a<x<0・・・②\]
①と②を合わせると\[\style{ color:red; }{ -a<x<a }\]となる。
これで公式②の証明はできました。公式①〜③はとても重要ですので、しっかり押さえておいてください。
あと1つ重要な公式があります。
それは\[\style{ color:red; }{ |a|≧a }\]というものです。
この証明を簡単にしておきます。
そのために随所にすでに出てきていますが、
\(|a|\)は、
\(a<0\)のとき、\(|a|=-a\)
\(a≧0\)のとき、\(|a|=a\)
ということを使います。
\(|a|≧a\)を証明するために、\(|a|-a≧0\)を証明していきます。
(1)\(a<0\)のとき、\(|a|=-a\)
よって、
\(|a|-a=-a-a=-2a\)
ここで、\(a<0\)より\(0<-2a\)
ゆえに、\(|a|>a・・・①\)
(2)\(a≧0\)のとき、\(|a|=a・・・②\)
\(①\)、\(②\)より\[\style{ color:red; }{ |a|≧a }\]
この公式は証明問題でよく使われる公式ですので、よく覚えておきましょう!
絶対値を含む不等式の問題
絶対値を含む不等式の問題①:基礎問題
では、実際に問題を解いていきましょう!
最初は基礎的な問題からです。
問題1
次の不等式を解け。
\(|x+5|>10\)
問題1の解答・解説
先ほどの解説のように、絶対値を外す作業をまずやっていきます。
絶対値を外すと、\[x+5<-10,10<x+5\]になります。
よって、\[\style{ color:red; }{ x<-15,5<x }\]が求める\(x\)の範囲になります。
絶対値を含む不等式の問題②:応用問題
次は応用の問題です。少し骨がありますが、しっかりと食らいついてください!
問題2
次の不等式を解け。
\(|x+2|+|x-1|<5\)
問題2の解答・解説
絶対値の不等式の問題をある程度解いたことのある人なら、見たことがある問題かもしれません。
この問題は場合分けを使って解くのがオーソドックスですが、3つに場合分けせねばならず、少々面倒です。
一応、場合分けをした時の解答例を示しておきます。
[解答例1]\(|x+2|\)は、
\(x<-2\)のとき、\(-(x+2)\)
\(x≧-2\)のとき、\((x+2)\)
\(|x-1|\)は、
\(x<1\)のとき、\(-(x-1)\)
\(x≧1\)のとき、\((x-1)\)
(1)\(x<-2\)のとき、与式は
\(-(x+2)-(x-1)<5\)
\(-2x-1<5\)
\(-6<2x\)
\(-3<x\)
\(x<-2\)と合わせて、\[-3<x<-2・・・①\]
(2)\(-2 ≦ x <1\)のとき、与式は
\((x+2)-(x-1)<5\)
\(3<5\)
これは常に成り立つので、\[-2 ≦ x < 1・・・②\]
(1)\(1 ≦ x\)のとき、与式は
\((x+2)+(x-1)<5\)
\(2x+1<5\)
\(2x<4\)
\(x<2\)
\(1 ≦ x\)と合わせて\[1 ≦ x<2・・・③\]
\(①~③\)を合わせて、下の図のようになり
不等号の下に「=」がついていない場合、その値が含まれていないことを示すため、数直線上で図示する場合は中空きの丸(◯)、線を斜めに書きます。
よって、答えは\[\style{ color:red; }{ -3<x<2 }\]になります。
こちらは場合分けがあり、やはり面倒です。
そのような時に何をするかというと、「グラフを書いて考える」ということをします。
まずは、\(y=|x+2|+|x-1|\)のグラフを書きます。
書き方は、\(y=|x+2|\)のグラフと\(y=|x-1|\)のグラフを合成することで書き表せます。
ある\(x\)における2直線上の点の\(y\)座標を足し合わせて、この2つのグラフを合成します。
あとは、\(y=|x+2|+|x-1|\)のグラフで\(y\)座標の値が\(5\)を下回っている所の\(x\)の範囲が答えに範囲になります。
太線で書いた直線が、\(y=5\)よりも下に潜っている所の\(x\)が求める答えなので、上の図より\[\style{ color:red; }{ -3<x<2 }\]になります。
こちらの解き方は少しテクニカルなので、わからなかった人は場合分けで解くべきです。
しかし、グラフの合成という技を知っている人は、時間を大幅に削減できるので、ぜひ習得してみてくださいね。
絶対値を含む不等式の問題③:証明問題
最後に、証明問題をやって終わりにしましょう。
最も典型的な問題をやってみましょう。
問題3
\(a\)、\(b\)が実数であるとき、次の不等式を証明しなさい。
\(|a|+|b|≧|a+b|\)
問題3の解答・解説
この問題は高校の教科書にも載っていると思いますので、知っている人も多いと思います。
超有名な問題ですので、一緒にやっていきましょう!
絶対値がついていて、式の変形もできなくなった…となったときは2乗してみるという方法がありました。
今回もこのままでは何もできないので、2乗をしてみます。
左辺を2乗すると、\[(|a|+|b|)^2=a^2+2|ab|+b^2\]になります。
右辺を2乗すると、\[|a+b|^2=(a+b)^2=a^2+2ab+b^2\]になります。
ここで、(左辺)\(^2\)\(-\)(右辺)\(^2\)をすると
\((a^2+2|ab|+b^2)-(a^2+2ab+b^2)\)
\(=2(|ab|-ab)・・・①\)
ここまでくれば使う公式は、\[|x| ≧ x\]ですよね。
\(x\)の部分を\(ab\)に置き換えて、\(|ab|≧ ab\)になり、右辺を移項して\[|ab|-ab ≧ 0\]まできました。
あとはこれを\(①\)のところで使うと、\(① ≧ 0\)ということがわかります。
よって、\(|a|+|b|≧|a+b|\)が証明されました。
「絶対値つきの証明問題は、2乗する」と覚えておいても良さそうですね。
絶対値を含む不等式のまとめ
いかがでしたか?
絶対値はいろんな分野、いろんな種類の問題としてとても幅広く出てきます。今回紹介した問題は、その一部に過ぎません。
しかし、今回解説した基礎を押さえていれば、多くの問題には対処できます。
絶対値の扱いに慣れるまで、しっかりと基礎を押さえ、復習をしてくださいね。