はじめに:現代文の小説で安定して点数を取るために
みなさん、現代文の小説は得意ですか?
小説って、評論以上に点数が安定しにくい分野ですよね。
「登場人物の気持ちなんて、その人にしかわからないでしょ」
「小説の読み方なんて、人それぞれでいいじゃないか」
と、卑屈になっている人も多いと思います。
でも実は、小説の読解にはちゃんとした「型」があり、その型に沿って読めば点数が安定するのです。
そこでこの記事では、(学校では教わらない)現代文の小説の読み方を詳しく解説します。
この記事を読んで、小説で安定して点を取れるようにしましょう!
目次
現代文の小説を読む上で意識すべきこと
はじめに、現代文の小説を読む上で意識すべきことを説明します。
現代文の小説を読む上で意識すべきこと①:語り手の現実を意識する
そもそも小説とは何か、みなさんは説明できますか?
小説とは、一言で言えば「作者が自らの独創性によって人間と人間が作る社会を描いた、散文形式の文学作品」となります。
小説が伝統的な物語・説話・訓話と異なるのは、作者の独創性が求められるという点です。
かつて文学作品は権力を誇示するために作られていたので、伝統的な物語には個人の独創性は要りませんでした。
ところが近代に入って、公権力から独立した「個人」という概念が確立されると、個人が自由に自分の価値観を訴える文学作品が作られるようになりました。
それが小説なのです。
小説では、筆者の視点が語り手の視点となることが多くあります(現代文として出題される小説なら、ほとんどがそうです)。
したがって、筆者が描きたい人間や社会は、語り手が見ている人間や社会ということになります。
語り手が見ている世界で起こることの中に、筆者が描きたい要素が詰まっています。
ですから、小説を読むときにはまず語り手の視点がどこに設定されているかを確認するようにしましょう!
現代文の小説を読む上で意識すべきこと②:変化を読む
小説の内容は語り手によって語られますが、語られる内容には何らかの重要な価値が宿っています。
語る価値のないことなら、わざわざ小説にしないはずですからね。
では、語られる価値のある内容とはどんな内容でしょうか。
みなさんが、「人生の中で重要な出来事を挙げてください」と言われたら、おそらく自分の人生を変えた出来事を挙げるはずです。
小説の内容についても同じことが言えます。筆者にとって価値のある内容とは、人生を変えてしまうような出来事なのです。
したがって、小説の内容には、人生を変えるほどの大きな変化が必ず含まれています。
登場人物の人生が、何によってどのように変化したのか。
大きな変化・転換点に注目して小説を読むと、その小説の核となる要素が見えてきます。ぜひ意識してみてくださいね。
現代文の小説の具体的な読み方
小説を読むとき、真っ先に意識すべきは以下の2点です。
- 語り手の視点
- 大きな変化
この2点を意識して、2020年度センター試験(現在の大学入試共通テスト)本試験で実際に出題された小説の問題を読んでいきましょう。
こちらから無料でダウンロードできるので、ぜひ皆さんも読んでみてくださいね。
現代文の小説の具体的な読み方①:語り手の視点と、出来事・時間の区切れを意識して一読する
2020年度センター試験本試験で出題されたのは、原民喜(はら・たみき、1905〜1951)の「翳」(かげ)という小説です。
小説の問題を解くときは、設問を見る前に問題文を一読しましょう。
設問より問題文を先に読むべき理由
文章と設問のどちらを先に読むべきかについては色々な意見がありますが、私は文章を先に読んだ方がいいと考えています。
理由は単純で、設問を先に読んでも、設問の内容が理解できなくて不安になるだけだからです。
理解できない設問文を読んで不安になるよりは、正しく読めばある程度理解できる文章を先に読んだ上で設問を読む方が精神的に安定します。
それに、仮に文章を読まずに設問の内容を理解できたとしても、その理解は本質的な理解にはなり得ません。
設問の内容は、必ず文章の内容全体を踏まえて作られているのですから、文章を読まないと設問の本質は理解できませんよね。
というわけで、設問よりも文章を先に読むのを私はオススメします。
語り手の視点を捉える
というわけで、早速問題文を読んでいきましょう。
まずは語り手の視点がどこにあるのかを探します。
第一段落の一文目、「私は1944年の秋に妻を失ったが……」
第二段落の一文目、「私は妻の遺骨を郷里の墓地に納めると……」
第三段落の一文目、「私がはじめて魚芳を見たのは……」
もうお分かりですね。この小説では、語り手は「私」であり、「私」の視点は妻の死や妻との過去の生活に向けられています。
妻を失った「私」という語り手が、「魚芳(川瀬成吉)」や妻と過ごした日々を思い起こす。まずはこの語り手の意識を押さえておきましょう。
出来事と時間の区切れを意識して読み進める
語り手の視点を掴んだら、次は出来事と時間の区切れ・変化を意識して読み進めましょう。
1ページ目では、第三段落(13行目)で「現在→12年前」へ時間が変化していますね。
2ページ目は……
最初の方は「のんびりとした情景」(32行目)が語られていますが、33行目に「だが、日華事変の頃から少しずつ変って行くのであった」とあり、この直後から出来事の様子が変化することがわかります。
日華事変による変化は3ページ目へと引き継がれます。
45行目に「目に見えない憂鬱の影はだんだん濃くなっていたようだ」とあるので、この辺りから日華事変による変化が強いネガティブな意味を持つようになったことが伺えますね。
そのまま4ページ目へと進むと、
57行目でついに魚芳も軍に入隊し、同時期に「私」の妻が病気になります。
その後魚芳は軍を除隊になり、一度帰郷して病床にあった「私」の妻と会った後、満州へと旅立ちました。
最終5ページ目を見てみると、
満州へ行ってから数ヶ月後、魚芳は現地の吏員(役所の職員)になり、「私」へ手紙を送っていることが伺えます。しかしこのとき、「私」の妻は手紙に返信できないほど重篤な状態にありました。
最終段落で、時間は再び現在へと戻り、「私」は魚芳の死に思いを馳せます。なんとも、やりきれない感情が残る終わり方ですね……。
現代文の小説の具体的な読み方②:場面の雰囲気の変化を読み取る
問題文を一読して、時間と出来事の区切れを確認してきました。
ここまでの読解を整理して、この小説の内容の中で一番大きな変化を見つけましょう。
小説の中で一番大きな変化は、明るい雰囲気・気持ちから暗い雰囲気・気持ちへの変化(あるいはその逆)として現れます。
この小説の中で、雰囲気の明暗がはっきりと変化するようになるのは……
45行目の、「目に見えない憂鬱の影は、だんだん濃くなってきた」ですね。この辺から、それまでの明るい賑やかな雰囲気が徐々に暗く寂しい雰囲気に変わっていきます。
それまで、「私」の妻と魚芳は明るく談笑できていたのに、妻は病気になり、魚芳は出兵して、最後は2人とも亡くなってしまいます。
この小説では、場面の雰囲気が「明→暗」に変化します。センター試験で出題されるような小説は「暗→明」の変化が多いので、珍しいパターンですね。
現代文の小説の具体的な読み方③:変化の原因となる出来事を見つける
小説の中の大きな変化を読み取れたら、最後にその変化の原因となる出来事を見つけましょう。
「私」とその妻や魚芳たちの幸せな日々を奪ったのは、一体何だったのでしょうか。
答えは2ページ目の33行目にあります。
そう、戦争ですね。
最終文にも、
「終戦後、私は郷里にただ死にに帰って行くらしい疲れ果てた青年の姿を再三、汽車の中で見かけるのであった……」
とあるので、「私」は戦争にかなり否定的な感情を持っていることが伺えます。
戦争によって、幸せな日々が奪われた__これが、この小説における「私」の主張の総括になるでしょう。
おわりに:読み方を理解すれば、小説はもっと読みやすくなる
いかがでしたか?
この記事では、点数が不安定になりがちな現代文の小説の読み方を、イチからわかりやすく説明しました。
小説は読むときに主観的な感情によるバイアスがかかりがちですが、読解の型を知っておけばいつでも同じように読むことができます。
ぜひこの記事で紹介した読み方を意識して、現代文の小説を読んでみてくださいね。
それでは!!