はじめに
古典文法チェック&演習シリーズ、今回は断定の助動詞「なり・たり」を取り上げます。
「なり」には伝聞・推定、「たり」には完了・存続の意味もありますが、今回の意味は「断定」です。
ややこしいこの2つの助動詞、しっかり覚えてしまいましょう!
目次
断定の助動詞「なり・たり」の活用
断定の助動詞「なり」
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|
なり | なら | なり(に) | なり | なる | なれ | なれ |
活用は形容動詞ナリ活用です。
なり…「き」「けり」「けむ」「つ」を伴うとき。
に…「にて」「にして」「にか」「にや(あらむ)」「にもあらず」等の形で用いられるとき。
断定の助動詞「たり」
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|
たり | たら | たり(と) | たり | たる | たれ | たれ |
活用は形容動詞タリ活用です。
断定の助動詞「なり」の意味・訳し方・接続
助動詞 | 文法的意味 | 訳し方 | 接続 |
---|---|---|---|
なり | 1.断定 2.存在 |
1. ~だ、~である 2. ~にいる、~にある |
体言・連体形に接続 |
1. 断定
道長が家より帝・后立ち給ふべきものならば、この矢あたれ(大鏡・道長伝)
(道長の家から帝や皇后が即位なさるはずのものであるならば、この矢よ、当たってくれ)
勝たんとうつべからず、負けじとうつべきなり。(徒然草・一一〇段)
(勝とうとして打つのではなく、負けまいと打つべきである。)
2. 存在
御前なる獅子・狛犬背きて、後さまに立ちたりければ(徒然草・二三六段)
(御前にある獅子と狛犬がお互いに背を向けて後ろ向きに立っていたので)
直前に場所・方角を示す体言がある場合のみ、存在です。
断定の助動詞「たり」の意味・訳し方・接続
助動詞 | 文法的意味 | 訳し方 | 接続 |
---|---|---|---|
たり | 1.断定 | 1. ~だ、~である | 体言に接続 |
1. 断定
しかるを忠盛備前守たりし時(平家物語・殿上闇討)
(さて、忠盛が備前守であった時)
五日のあかつきに、せうとたる人、ほかより来て(蜻蛉日記)
(五日の夜明け前に、兄弟である人がよそから来て)
体言+「たり」→断定
連用形+「たり」→完了
※形容動詞の語尾活用の場合もある。
実際の問題で確認してみましょう!
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- ( )に入る断定の助動詞「なり」を適切な形に活用しなさい。
(1)おのが身はこの国の人()もあらず、月の都の人()。(竹取物語)
(2)心といふもののなき()やあらむ。(徒然草・二三五)
①の解答
(1)に・なり
最初の()は連用形、もう一つは終止形です。意味は断定。
訳:私の身は、この人間の世界の人ではない、月の世界の人である。
(2)に
連用形の「に」です。意味は断定。
訳:心というものがないのであろうか。
ちなみに、(2)の「にやあらむ」の「む」は推量の助動詞「む」ですが、終止形ではなく連体形です。係り結びの法則を覚えているでしょうか?
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- ( )に入る断定の助動詞「たり」を適切な形に活用しなさい。
(1)五日のあかつきに、せうと()人、ほかより来て(蜻蛉日記)
(2)君()ども臣()ども、だかひにこころざし深く隔つる思ひのなきは(十訓抄・五)
②の解答
(1)たる
後に体言が来ているため、連体形です。
訳:五日の夜明け前に、兄弟である人がよそから来て
(2)たれ・たれ
後に「ども」がきているため、已然形となります。
訳:君主であるけれども、家臣であるけれども、お互いに志が深く隔たりを感じないものであれば
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- 次の文中にある助動詞「なり」の文法的意味を答えなさい。
(1)天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも(古今集・巻九)
(2)よのつねならぬさまなれども、人にいとはれず、(徒然草・六〇段)
③の解答
(1)存在
前に春日という地名があるため所在となります。
訳:大空はるかにふり仰ぐと、春日にある三笠の山に出ていたのと同じ月であるよ。
(2)断定
訳:世間並みではない有様であったが、人からは嫌われず、
おわりに
いかがでしたか?
「なり」「たり」は他にも意味があり覚えるが大変ですが、どんな文章にも出てくると言ってよい基本の助動詞です。
使い分けを含めしっかり覚えてしまいましょう!