はじめに
背理法での証明は数学全般でとても重要で、大学入試でも超頻出です。
今回は東京工業大学に通う筆者が、これから背理法の勉強を始める人にはもちろん、理解が曖昧で復習したい人にも分かりやすく背理法とは何か、また、その書き方・どんなときに背理法を使うべきかを解説します!
最後には背理法による証明を身につけるための練習問題も用意しました。
ぜひ最後まで読んで、背理法を完璧にマスターしましょう!
目次
背理法とは
背理法とは、ある主張を証明するのに、その主張が正しくないと仮定して矛盾を導くことで行う証明方法のことです。
例として「太郎くんが犯人じゃないこと」の証明を考えてみましょう。
- 太郎くんが犯人だと仮定すると、太郎くんは犯行時刻に現場にいたはずです。
- しかし、太郎くんはそのとき別の場所にいたことが確認されており、現場にはいませんでした。
- よって太郎くんは犯人ではありません。(証明終)
このように、背理法は
という流れで証明していく方法です。
覚えるべき背理法の書き方
背理法で証明を書くにあたって、絶対に書かなければいけない定型文が存在します。これはこの場で覚えてしまいましょう。
背理法の書き方・定型文①:〜でないと仮定する。
背理法で証明するときは必ず「〜でないと仮定する。」と書き始めます。
その前に「〜であることを背理法で証明する。」という一文を加えると、より丁寧な証明になります。
背理法の書き方・定型文②:これは〜であることに矛盾する。
背理法の証明の締めくくりは「これは〜であることに矛盾する。よって背理法により〜であることが示された。」です。
背理法の書き方・実例
さきほど紹介した「太郎くん」の例でこの定型文の使い方をみてみましょう。
太郎くんが犯人でないことを背理法で証明する。まず、太郎くんが犯人であると仮定する。
すると、太郎くんは犯行時刻に現場にいたはずだ。
しかし太郎くんはそのとき別の場所にいたことが分かっており、矛盾する。
よって太郎くんは犯人でないことが証明された。
これは簡単な例ですが、数学でも同じように定型文を使います。
背理法の証明を使うときの判別方法
証明問題が出題されたとき、背理法以外にも、普通に式変形して証明する、対偶を証明するなど、証明方法はたくさんあります。
実は、どんな定理でも背理法を使って証明することができます。逆に、絶対に背理法でないと証明できない定理は存在しません。
ではどのような問題・どういう場面のときに背理法が有効なのでしょうか?
背理法による証明を使うとき①:否定した方が数式で表しやすいとき
たとえば「\(\sqrt{2}\)が無理数であること」の証明。「無理数」ってどうやって数式で表しますか? 難しいですね。
では「無理数でないこと」つまり「有理数」はどのように表せますか? 「整数の分数」で表せますよね。
つまり、「無理数であること」を直接証明するのは難しいですが、「有理数であると仮定して矛盾を導く」のは比較的簡単にできるのです。
背理法による証明を使うとき②:〜でないこと、を証明するとき
「aとbが互いに素であること」の証明を考えてみてください。これは「aとbが1以外に公約数をもたないこと」の証明ですね。
このように否定を証明するときにも背理法が使えることが多いです。
背理法による証明・実例
ただし、これら2つの条件に当てはまっているからといって必ずしも背理法が良いとは限りませんし、この2つに当てはまっていなくても背理法の方が良い例もあります。
どういうときに背理法が有効かは、大学の数学科の人ですら分かりません。
少し時間がかかってしまうかもしれませんが、証明問題をみたら最初は直接証明を試みて、行き詰まったら背理法や他の方法を試してみるのがおすすめです。
背理法の証明の例題
高校生が最も覚えていなくてはいけない背理法の証明は、「\(\sqrt{2}\)が無理数であること」の証明です。
同様に\(\sqrt{3}\)や\(\sqrt{5}\)などについても問われることがあるので、証明全体をまるごと覚えておくと良いでしょう。
例題
\(\sqrt{2}\)が無理数であることを証明せよ。
例題の解答・解説
\(\sqrt{2}\)が無理数であることを背理法で証明する。まず、\(\sqrt{2}\)が無理数でないと仮定する。
このとき、\(\sqrt{2}\)は有理数であるので、\(\sqrt{2}\)は互いに素な自然数a,b(つまりa,bとも正の整数で、aとbの公約数は1のみ)を用いて\(\frac{a}{b}\)と表せる。
(これは有理数の定義です。有理数について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください)
\(\sqrt{2}=\frac{a}{b}\)
\(\sqrt{2}b=a\)
両辺を2乗して、
\(2b^2=a^2\)
ここで左辺と右辺を見比べることにより、\(a^2\)は2の倍数であることがわかる。\(a\)は自然数なので、\(a^2\)が偶数であるということは\(a\)も偶数である。(奇数は2乗しても奇数です)
\(a\)は2の倍数だったので、ある自然数cを用いて\(a=2c\)と表せる。これを\(2b^2=a^2\)に代入すると、
\(2b^2=(2c)^2\)
\(2b^2=4c^2\)
\(b^2=2c^2\)
さきほどと同じように\(b^2\)は2の倍数であり、したがって\(b\)も2の倍数であることが分かる。
ここで、aもbも2の倍数。しかし、これは最初に述べたaとbは互いに素という条件に矛盾する。よって背理法により\(\sqrt{2}\)が無理数であることが示された。
背理法の証明の練習問題
それでは問題を解いて背理法を使った証明の練習をしましょう。
問題1
\(\sqrt{5}\)が無理数であることを証明せよ。
問題1の解答・解説
基本的には\(\sqrt{2}\)のときと同じです。
まず、\(\sqrt{5}\)が無理数でないと仮定する。
このとき、\(\sqrt{5}\)は有理数であるので、\(\sqrt{5}\)は互いに素な自然数a,bを用いて\(\frac{a}{b}\)と表せる。
\(\sqrt{5}=\frac{a}{b}\)
\(\sqrt{5}b=a\)
両辺を2乗して、
\(5b^2=a^2\)
ここで左辺と右辺を見比べることにより、\(a^2\)は5の倍数であることがわかる。\(a\)は自然数なので、\(a^2\)が5の倍数であるということは\(a\)も5の倍数である。
\(a\)は5の倍数だったので、ある自然数cを用いて\(a=5c\)と表せる。これを\(5b^2=a^2\)に代入すると、
\(5b^2=(5c)^2\)
\(5b^2=25c^2\)
\(b^2=5c^2\)
さきほどと同じように\(b^2\)は5の倍数であり、したがって\(b\)も5の倍数であることが分かる。
ここで、aもbも5の倍数。しかし、これは最初に述べたaとbは互いに素という条件に矛盾する。よって背理法により\(\sqrt{5}\)が無理数であることが示された。
次の問題は少し応用になります。このパターンもよく出題されるので証明を覚えておきましょう。
問題2
\(1+\sqrt{2}\)が無理数であることを証明せよ。
問題2の解答・解説
\(1+\sqrt{2}\)が有理数であると仮定する。すると、ある有理数qを用いて\(1+\sqrt{2}=q\)と書ける。
\(1+\sqrt{2}=q\)
\(1=q-\sqrt{2}\)
\(1=q^2-2q\sqrt{2}+2\)(両辺を2乗)
\(2\sqrt{2}q=q^2+2-1\)
\(2\sqrt{2}q=q^2+1\)
\(\sqrt{2}=\frac{q^2+1}{2q}\)
このとき、右辺の\(\frac{q^2+1}{2q}\)は、有理数のかけ算や足し算・割り算のみでできているので、有理数です。
しかし、左辺の\(\sqrt{2}\)は無理数。(無理数)\(=\)(有理数)となってしまうので矛盾します。
したがって背理法より\(1+\sqrt{2}\)が無理数であることが証明されました。
背理法が有効なのは無理数であることの証明だけではありません。もし数列も勉強しているなら、次の応用問題にも挑戦してみてください。
問題3
\(a_1=2\)、\(a_{n+1}=\frac{a_n-9}{a_n-5}\)で定められる数列{\(a_n\)}に対し、すべての自然数nの対して\(a_n≠3\)であることを示せ。
問題3の解答・解説
ある自然数nに対して\(a_n=3\)と仮定する。すると、
\(a_n=\frac{a_{n-1}-9}{a_{n-1}-5}=3\)
\(a_{n-1}-9=3(a_{n-1}-5)\)
\(a_{n-1}-9=3a_{n-1}-15)\)
\(2a_{n-1}=6)\)
\(a_{n-1}=3\)
つまり、\(a_n=a_{n-1}=3\)であることが分かった。
ここで、\(a_{n-1}=3\)であることから、同様に\(a_{n-2}=3\)であり、これを繰り返せば
\(a_n=a_{n-1}=a_{n-2}=・・・=a_1=3\)
である。
しかしこれは\(a_1=2\)であることに矛盾する。よって背理法により、すべての自然数nの対して\(a_n≠3\)であることが示された。
最後に
いかがでしたか? 大学入試において証明問題は必ずといっていいほど出題されます。背理法が使いこなせるよう、何度も練習して身につけておきましょう!