はじめに
医学部に入ると、そこにはどんな大学生活が待ち受けているのでしょうか?
そこで今回は、京都大学・医学部医学科を卒業し、現在、京都大学医学部附属病院の研修医をしている私が、意外と知られていない医学生のリアル大学生活6年間をお伝えします。
医学部合格を胸に誓っている人はモチベーションアップに、医学部に行こうかどうか迷っている人にはぜひ参考にしてください。
目次
医学生の授業と学生生活
大学の授業は一般教養と専門科目に分かれる
まず、大学の授業は、医学部に限らず一般教養と専門科目に分かれます。
一般教養は「教養の幅を広げる」ことが目的で、自分の学科や先行とは関係なく授業を選びます。
工学部の学生が哲学の授業をとったり、経済学部の学生が科学を履修したりもできます。
それに対して、専門科目は「自分の専攻に関する深い知識を得る」ことが目的です。
医学部の専門科目は基礎と臨床とがある
さて、医学部の専門科目はさらに、「基礎」と「臨床」とに分かれます。
基礎科目は薬学や生物学に近い科目で薬がどのように人体に作用しているか、あるいは人間の発生や免疫機構の詳しいシステムなど体の仕組みを学びます。
それに対して臨床科目では病気や治療について学びます。
例えば臨床の循環器科目であれば、心臓がどのくらい血液を出して、それがどのように体をまわっていくかといった基本に始まり、循環器の病気、検査、診察、そして治療を学ぶことになります。
【大学1年生】一般教養のみで医学に直接的に関係する授業はあまりない
大学1年生の授業はほとんどが一般教養です。
数学の必修科目や、法律、哲学、文学などの文系科目、さらに英語や第二外国語(ドイツ語、中国語、フランス語など)といった語学の授業が中心になります。
医学部に入るとすぐに医者になる勉強をするのでは、と思う人も多いかもしれませんが、大学1年生では医学に直接的に関係する授業は全くと言っていいほどありません。
【大学2年生】組織学、発生学などの医学関連の基礎科目と解剖実習が始まる
基礎医学について幅広く授業を受ける
1年目に教養科目の単位を最低ラインまで取得できなかった人は継続して一般教養。
そして、組織学、発生学、生理学や生化学などの基礎医学の基礎科目が始まります。
研修医となった今では、こういった授業が大事だったと強く思いますが、正直当時は何のことかさっぱりでした(笑)
勉強量としてはそこまで多くなく、テスト前だけ勉強は大変ですが、精神的にも時間的にも余裕を持って生活できます。
解剖実習が始まる
そして2年生の9月からは2年生の中でも一番大きな実習である解剖実習が始まります。
解剖実習の始まる頃から比較的忙しくなってきます。
(解剖実習については後日改めて別の記事でご紹介したいと思います。)
遊べるのは大学2年生まで!
夏休み、冬休みといった長期休みは6年生までありますが、学年が上がるにつれて授業や実習が忙しくなるため、長期旅行などに行けるのはこの大学2年生までです。
なるべく早いうちから先輩などから、どんなバイトをしているか、部活の状況、試験についてなど情報を集めて、充実した大学生活になるよう計画を立てないと、大学生らしい旅行や遊びを全くしないまま大学生活が終わってしまった、なんてことにもなりかねないので十分ご注意を。
【大学3年生】基礎科目に加え、臨床科目が始まる
臨床科目が始まると絶望的な忙しさになる
2年~3年秋に基礎、3年秋から4年末まで臨床を行うというのが基本的な流れになります。
つまり秋までは2年生の続きで、薬理学、病理学、神経科学など基礎科目の座学が中心です。
3年秋には一通り基礎が終わり、臨床科目が始まります。
臨床科目が始まると、循環器を皮切りに毎週テストがあり、それがその後1年間続きます。
つまり1年間で50~60回のテストがあるということ。
今までとは比べものにならないほど異常な忙しさになります。
京大は1科目でも落としたら留年
留年の基準は大学によって異なりますが、京大では1科目でも落としたら即留年です。
1つでも不合格になったら留年が確定し、約1割以上が留年しています。
各テストの範囲は100~200ページくらいの膨大な量のため、完全にすべての事項を覚えて行くのは不可能で、過去問を参照したり全体の流れを掴んだ上で重要なところをピックアップしたりしながら勉強を進めていきます。
友達や先輩とのコネクションが非常に重要で、先輩の情報などを元に効率良く勉強していかなくてはなりません。
【大学4年生】テスト!テスト!そしてテスト!
膨大なテストが続く…
3年秋から始まる臨床科目と膨大なテストが4年の冬まで続きます。
また、4年の秋から2ヶ月間研修室に所属します。
CBTとOSCE
4年生の冬にCBTとOSCEという2つの試験があります。
CBTはセンター試験のようなイメージで、全国の医学科4年生が受験します。
範囲は基礎から臨床まで幅広い分野に渡り、総括テストといったようなところです。
OSCEは聴診器のあて方や、針の縫い方といった実技のテストです。
これらの試験は5年生への進級判定に使われることが多く、とても勉強が大変です。
【大学5年生・6年生】病院実習が始まる
約1年半の病院実習
5年の春より、5人ほどのチームに分かれて、自分の大学の病院(京大病院)もしくは関連病院で実習を行います。
病院実習は通称「ポリクリ」と呼ばれます。
ポリクリでは、先生のサポートの下、外来や検査、手術の見学などに加え、担当患者を1〜2人持ち、話を聞いて診察を行ったり、カルテを書いたりもします。
病院実習では、自分で内科、外科など実習を行う科を選ぶわけでなく、ベースとなるコースがあります。
もちろん、好きな科を選択して2、3ヶ月に渡って集中的に学ぶ期間も設けられています。
この病院実習は6年の夏頃まで続きます。
病院実習を通じて感じたのは、医者の仕事は、想像しているより地味でしんどいということ。
事務仕事も多く、ドラマのようなイメージとは違います。
外科系であれば手術に立ち会ったり、内科系であれば患者を先生と一緒に受け持って診察、プレゼンテーションを行ったりと研修医の一歩手前のような感じです。
科によっては夜中遅くまでになることもしばしばありました。
医学生にも”マッチング”と呼ばれる就職活動がある
医学部生も就職活動があり、マッチングと呼ばれます。
マッチングは6年生の8月に行われ、10月にはどこの病院で働くかが決まります。
マッチングでは、病院の大きさや待遇、あるいは有名な先生がいるかどうかなどを鑑みて、自分が行きたいと思う病院に試験を受けにいきます。
試験の形式は面接や論文や筆記など、病院によって様々です。
受験者は、病院に対して第1希望、第2希望…という形で順位を付けます。
同時に病院側も就職希望者に1位、2位と順位をつけ、最終的にコンピュータを用いてマッチングを行い、初期研修で働く病院が決まる仕組みです。
受験者の大学病院が拾ってくれるため、就職できないということはありません。
就職活動に関して言えば、人気のある病院は当然大変。
そのような病院に採用されている人を見ると勉強云々よりもガッツのある人が選ばれているような気がします。
また、例えば大学病院を就職先に選んだ人でも、外の病院に行くことがきます。
大学病院はいろいろと大変なことも多いが、教育施設なので勉強になることも多いです。
もちろん大学病院だと視野が狭くなるのでで外の市中病院も廻る、という人もいます。
最後の関門!一定人数が確実に不合格になる医師国家試験
医師国家試験は卒業間際の2月にあります。
9割が合格し、合格率自体は高いです。
ただし、医師国家試験は合格ラインが設定されているのではなく、ある一定人数が不合格になるという相対評価なので、他の医学生と同様もしくはそれ以上勉強しないと合格できません。
勉強自体は5年生の頃からゆっくり始めていく人が多いです。
【おわりに】医学生の大学生活は忙しい!が、その分得られるものも多い
医師には、皆さんがまずイメージするであろう町の臨床医だけでなく、研究医、監察医、病理医、産業医など様々な形があります。
そしてすべての医師には、本気で学び続け、本気で腕を磨き続け、本気で人間に向き合い続けることが求められています。
医学部志望の方は、入学しさえすれば将来安泰などといいう意識はバッサリ捨て、入ってからどれだけ学べるかが勝負であるということを肝に銘じた上で、受験を乗り越えて下さい。
医学部という狭き門は、その「覚悟」がある者にだけ開かれるのだと思います。
ライタープロフィール
京都大学・医学部医学科に現役合格。現在、京都大学医学部附属病院の研修医。
東海地方の中高一貫校出身。高校時代は部活でサッカーに明け暮れました。
画像提供:
ブラックジャックによろしく 佐藤秀峰 「漫画 on web」(mangaonweb.com)